クリフォード・アーヴィングとは?ヒューズの偽自伝を書いた詐欺師

詐欺
クリフォード・アーヴィングとは?ヒューズの偽自伝を書いた詐欺師を3行で要約
  • 小説家アーヴィングが大富豪ハワード・ヒューズの自伝執筆を許可されたと偽り、出版社マグロウヒルから76万5000ドルの前払金を詐取した
  • ヒューズの筆跡を偽造した手紙で出版社を騙し、嘘発見器テストすら突破。筆跡鑑定の専門家も本物と認定した
  • ヒューズ本人が電話会見で否定したことで崩壊。アーヴィングは禁固2年半(17ヶ月服役)の判決を受けた

1971年、マグロウヒル出版社は20世紀最大のスクープを手にしたと確信していました。15年以上も公の場に姿を見せない世界一の大富豪ハワード・ヒューズが、ある作家に自伝の執筆を許可したというのです。

しかしその自伝は、最初の一文字からでっち上げでした。クリフォード・アーヴィングは、ヒューズに会ったことすらないのに100時間以上のインタビューを行ったと偽り、出版社から76万5000ドル(約1億円)の前払金を詐取したのです。この事件はタイム誌から詐欺師・オブ・ザ・イヤーと呼ばれ、20世紀最大の文学詐欺として歴史に刻まれました。

アーヴィングの経歴と詐欺の発端

クリフォード・アーヴィングとは、美術贋作師の伝記を書いたことがきっかけで、自ら文学的詐欺に手を染めた小説家です。

1930年11月5日、ニューヨークのユダヤ系家庭に生まれました。20冊以上の小説を出版していましたが、大きな成功には恵まれていませんでした。スペインのイビサ島に住んでいた時期に、ハンガリー出身の美術贋作師エルミア・デ・ホーリーと知り合い、彼の伝記を出版しています。

1970年、友人で児童書作家のリチャード・サスキンドと共に大胆な計画を思いつきました。ヒューズが完全に公の場から姿を消しているため、自伝を書いたとしても本人が名乗り出て否定することはないだろうと考えたのです。ニューズウィーク誌に掲載されたヒューズの本物の手紙を見て筆跡を模倣し、ヒューズからの偽の手紙を偽造して出版社への売り込みに使用しました。

出版社を騙す精巧な手口

アーヴィングの手口が成功した最大の理由は、筆跡鑑定と嘘発見器という2つの専門的検証を突破したことです。

マグロウヒルとLife誌は、ヒューズからの手紙の筆跡鑑定を専門会社オズボーン・アソシエイツに依頼しました。結果は本物と認定。さらにアーヴィングは嘘発見器テストも受けましたが、矛盾は示されたものの嘘は検出されなかったのです。

出版社は76万5000ドルの前払金をヒューズ宛の小切手で支払いました。しかしこの小切手は、アーヴィングの妻エディスがウィッグと偽造パスポートを使い、スイスの銀行でヘルガ・R・ヒューズという名前で口座を開設して入金していたのです。

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アーヴィングの事件で最も恐ろしいのは、筆跡鑑定も嘘発見器も専門家が本物と認定した点です。専門的な検証手段ですら、巧妙な偽造の前には万能ではないことを証明しました。現代でもデジタル署名や生体認証を過信せず、複数の検証手段を組み合わせることの重要性を教えています。

崩壊と判決

詐欺の崩壊は、ヒューズ本人が電話会見を行ったことで決定的になりました。

1972年1月7日、ヒューズは7人のジャーナリストとの電話会見を実施しました。会見でヒューズは、アーヴィングとは一度も会ったこともなければ連絡を取ったこともないと明確に否定しています。アーヴィングは電話の声は偽物だと主張しましたが、その後の調査で詐欺が次々と明らかになりました。

スイスの銀行当局の調査で、ヘルガ・R・ヒューズの口座がアーヴィングの妻エディスのものであることが判明。1972年6月、アーヴィングは詐欺罪で禁固2年半の判決を受け、17ヶ月服役しています。妻エディスもアメリカとスイスで合計16ヶ月服役しました。

アーヴィングは後に、もしやり直せるなら、全く同じことをするだろう。ただし一つだけ違いがある。今度は成功させると語り、反省の色を見せませんでした。この事件は2006年にリチャード・ギア主演で映画化されています。アーヴィングは2017年12月19日、膵臓がんのため87歳で亡くなりました。

まとめ

  • アーヴィングはヒューズの偽の手紙を偽造し、筆跡鑑定と嘘発見器を突破して出版社から76万5000ドルを詐取した
  • ヒューズ本人の電話会見で崩壊。妻がスイスの銀行で偽名口座を開設して入金していたことが判明し、夫婦共に投獄された
  • 専門的な検証手段すら万能ではない。複数の検証手段を組み合わせることが、高度な偽造に対する最善の防御だ

よくある質問

Q
偽の自伝は出版されましたか?
A

当初の出版計画は中止されましたが、1999年に私家版として少部数が印刷されています。また2012年にはアーヴィング自身がクリフォード・アーヴィングによるハワード・ヒューズの自伝というタイトルで電子書籍として公開しました。タイム誌はこの原稿を20世紀最も有名な未出版の本と評しています。

Q
なぜヒューズは電話会見に応じたのですか?
A

アーヴィングとサスキンドは、ヒューズが完全に隠遁生活を送っているため、自伝を否定するために公の場に出ることはないと予想していました。しかしこの予想は外れ、ヒューズの弁護士チェスター・デイヴィスが訴訟を起こすと共に、ヒューズ自身が電話会見に応じて明確に否定したのです。

Q
この事件は映画化されていますか?
A

2006年にラッセ・ハルストレム監督、リチャード・ギア主演でThe Hoaxとして映画化されています。ただしアーヴィング本人は映画の内容が事実と異なるとして、テクニカルアドバイザーのクレジットから自分の名前を外すよう求めました。また、アーヴィングはオーソン・ウェルズ監督のドキュメンタリー映画F for Fake(1974年)にも登場しています。

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リー・イスラエル ニューヨークの伝記作家リー・イスラエルは、キャリアの失墜と生活苦から 著名人の偽手紙を偽造して販売 する犯罪に手を染めた
スティーブン・グラス 米有力誌ニュー・リパブリックの若手スター記者だったグラスが、 41本の記事のうち27本を捏造 していたことが1998年に発覚した

【出典】参考URL

コメント

  1. 賠償罪子 賠償罪子 より:

    クリフォード・アーヴィングを記録しながら、「疑う」という行為に値段が付けられていく過程を確認しました。
    騙しの第一歩は金の要求ではありません。「この人は特別」という感覚の設計です。
    「自分は騙されない」という感覚は、統計上もっとも狙いやすい入口です。
    「自分ならこう見抜く」という視点があれば、コメントで聞かせてください。異なる視点の記録も、この記事の一部です。
    以上です。

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