特殊詐欺の認知件数は10年間でどう変化したか
特殊詐欺とは、被害者に電話をかけるなどして対面することなく信頼させ、指定した預貯金口座への振込みなどにより現金等をだまし取る犯罪の総称です。警察庁の統計によると、2015年の認知件数は約13,824件でしたが、その後減少と増加を繰り返しながら推移してきました。
2023年には認知件数が19,033件、被害総額は約441.2億円に達し、前年比でそれぞれ8.3%、19.0%の増加となっています。この増加傾向の背景には、犯行手口の巧妙化と、SNSを利用した新たな詐欺形態の出現があります。
さらに2024年には特殊詐欺の認知件数が21,043件に達し、被害額は721.5億円に上りました。SNS型投資・ロマンス詐欺を含めると被害総額は1,989.5億円と過去最悪を記録しており、事態の深刻さは年々増しています。
2015年〜2019年:オレオレ詐欺全盛期
この時期はオレオレ詐欺が特殊詐欺全体の中で最大の割合を占めていました。息子や孫を装って高齢者から現金をだまし取る手口が主流で、被害者の多くは70歳以上の女性でした。警察や金融機関による声掛け対策が進んだものの、犯行グループは常に手口を変化させ、完全な抑止には至りませんでした。
この時期には還付金詐欺も増加傾向を示しており、市区町村の職員や税務署の職員を装ってATMに誘導する手口が高齢者を中心に被害を拡大させていました。
2020年〜2021年:コロナ禍での一時的な減少
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、外出自粛や対面機会の減少が犯行にも影響を与えました。キャッシュカード手交型やATM利用型の犯行は一時的に減少した一方、電話やインターネットを介した非対面型の詐欺は継続しました。
コロナ禍を逆手に取った手口も出現しており、「給付金の申請を手伝う」「ワクチン接種の予約をする」などと称して個人情報をだまし取るケースが報告されています。
2022年〜2024年:架空請求詐欺とSNS型の台頭
2022年以降、架空料金請求詐欺の割合が急増しています。パソコンのウイルス感染を装う「サポート詐欺」や、未払い料金の存在を偽るSMS詐欺が典型的な手口です。2023年には架空料金請求詐欺の認知件数が5,198件と前年比77.9%増を記録しました。
さらに2024年以降は、SNS型投資詐欺・ロマンス詐欺が新たな脅威として浮上しています。これらはLINEやInstagramなどのSNSを通じて被害者に接触し、投資名目や恋愛感情を利用して金銭をだまし取る手口です。2025年上半期にはニセ警察詐欺が最大の手口となるなど、手口の変遷は極めて速いペースで進んでいます。
被害額の推移と深刻化する経済的損失
特殊詐欺の被害額は認知件数以上に深刻な増加を見せています。2019年には被害総額が約315.8億円でしたが、2023年には約441.2億円、2024年には721.5億円まで拡大しました。1件当たりの平均被害額は約340万円に達しており、一度の被害で生活基盤を失うケースも少なくありません。
この背景には、インターネットバンキングを利用した振込型の被害拡大があります。従来の現金手渡し型と比較して、1回の犯行で多額の資金を移動させることが可能になったためです。暗号資産への振込みも増加しており、被害金の追跡・回収がさらに困難になっています。
被害額の回復は極めて困難
振り込め詐欺救済法に基づく被害金の返還制度はありますが、犯人がすぐに資金を引き出すため、口座が凍結される時点では残高がほとんど残っていないケースが大半です。被害者が実際に回復できる金額は、被害額の数%にとどまることが多いのが実情です。
被害に遭った場合は、振込先の金融機関に即座に連絡して口座凍結を依頼することが、被害金回復の唯一の可能性を高める行動となります。
都道府県別の被害状況と地域差
特殊詐欺の被害は大都市圏に集中する傾向があります。東京都、大阪府、神奈川県、愛知県、埼玉県、千葉県、兵庫県、福岡県の8都府県で全体の約67%を占めており、人口比率(51.4%)と比較しても高い割合です。
東京都だけで見ると、2024年の特殊詐欺認知件数は3,494件、被害総額は約153億円に達しています。一方で、地方においても高齢者を狙った還付金詐欺やキャッシュカード詐欺盗の被害は発生しており、地域を問わない警戒が必要です。
被害が集中する地域の特徴
被害が多い地域には共通する特徴があります。高齢者の一人暮らし世帯が多いこと、固定電話の普及率が高いこと、都市部で匿名性が高く犯人の身元が特定しにくいことなどが挙げられます。これらの条件が重なる地域では、特に重点的な防犯対策が求められています。
犯行グループの組織構造と匿名化
特殊詐欺の犯行は高度に組織化されています。指示役(犯行計画を立て実行犯に指示する役割)、架け子(電話をかけて被害者を騙す役割)、受け子(現金を受け取る役割)、出し子(ATMから現金を引き出す役割)など、役割が細分化されているのが特徴です。
近年は匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)による犯行が増加しており、シグナルやテレグラムなどの暗号化メッセージアプリで指示を出し、実行犯の身元を把握せずに犯行を指揮する構造が主流になっています。実行犯はSNSの闇バイトで募集され、使い捨てにされるケースがほとんどです。
特殊詐欺から身を守るための実践的対策
特殊詐欺の被害を防ぐためには、日常的な防犯意識の向上が不可欠です。特に高齢者のいる家庭では、家族間での情報共有と具体的な対策の実施が重要になります。
固定電話に防犯機能付き電話機を導入すること、知らない番号からの電話には出ないこと、「お金」や「キャッシュカード」の話が出たら一度電話を切って家族に相談すること。これらの基本的な対策を日頃から習慣化しておくことが、被害を未然に防ぐ最も効果的な方法です。
警察庁は「電話でお金の話が出たら詐欺を疑う」ことを繰り返し呼びかけています。不安を感じたら、すぐに警察相談専用電話「#9110」に相談してください。
家族でできる具体的な対策
離れて暮らす高齢の家族には、定期的に電話をかけて近況を確認する習慣をつけましょう。「こういう電話がかかってきたら詐欺だよ」と具体的な手口を伝えておくことも効果的です。
合言葉(家族だけが知っている情報)を決めておくこと、固定電話を常に留守番電話設定にしておくこと、迷惑電話防止機能付き電話機に交換すること。これらの対策を組み合わせることで、被害リスクを大幅に低減できます。
対策チェックリスト
- 知らない番号からの電話には出ない。留守番電話に設定し、相手を確認してから折り返す。
- 「お金を振り込んで」「キャッシュカードを預けて」と言われたら、即座に電話を切る。
- 家族や信頼できる人に必ず相談してから行動する。
- 固定電話に通話録音機能付き電話機を導入する。
- 警察や銀行を名乗る電話でも、一度切って公式番号にかけ直す。
- 最新の手口情報を警察庁や自治体のサイトで定期的に確認する。
- 困ったら警察相談専用電話「#9110」に相談する。
関連用語
- 特殊詐欺:本記事の主題である特殊詐欺の定義と手口の全体像を解説する記事
- オレオレ詐欺:特殊詐欺の代表的手口であり、10年推移の中で最も認知件数が多かった時期がある
- 架空請求詐欺:2023年以降に急増した手口で、特殊詐欺全体の構成比が大きく変化した要因
- 還付金詐欺:高齢者を主なターゲットとする手口で、ATM操作を誘導して金銭を詐取する
- 受け子・出し子:特殊詐欺の実行犯として使い捨てにされる役割で、闇バイトとの関連が深い
よくある質問
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Q特殊詐欺とはどのような犯罪ですか
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A
特殊詐欺とは、電話やメール等で被害者に接触し、対面することなく信頼させて現金等をだまし取る犯罪の総称です。オレオレ詐欺、架空料金請求詐欺、還付金詐欺、キャッシュカード詐欺盗などの手口が含まれます。
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Q特殊詐欺の被害に遭いやすい年代はありますか
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A
従来は70歳以上の高齢者が主な被害対象でしたが、近年はSNS型投資詐欺やロマンス詐欺の増加により、20代から40代の被害も急増しています。2025年上半期のニセ警察詐欺では30代の被害が最多でした。
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Q被害に遭った場合はどこに相談すればよいですか
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A
最寄りの警察署または警察相談専用電話「#9110」に相談してください。消費者ホットライン「188」でも相談を受け付けています。振り込んでしまった場合は、すぐに振込先の金融機関にも連絡して口座凍結を依頼しましょう。
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Q特殊詐欺の被害金は戻ってきますか
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A
振り込め詐欺救済法に基づく返還制度がありますが、犯人が即座に引き出すため口座凍結時に残高がほとんどないケースが大半です。振込直後に金融機関に連絡することが唯一の回復手段と言えます。


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