- スリランカ出身のラジ・ラジャラトナムはヘッジファンド・ガリオンを設立し、最盛期には70億ドルの資産を運用。フォーブスの全米富豪400人にも名を連ねた
- ゴールドマン・サックスやインテルなどの内部者から未公開情報を入手し、約7200万ドルの不正利益を得た。証券詐欺事件として初めて盗聴捜査が適用された
- 2011年に14の罪状全てで有罪。禁固11年と5380万ドルの没収という、インサイダー取引として当時史上最長の判決を受けた
ゴールドマン・サックスの取締役会にいる人物から聞いたんだが、1株当たり2ドルの損失になるそうだ――。ラジャラトナムが従業員に語ったこの言葉は、FBIの盗聴によって録音されていました。ウォール街の頂点に立つヘッジファンドマネージャーの電話が、麻薬捜査と同じ手法で傍受されていたのです。
この記事では、アメリカ史上最大のインサイダー取引事件がどのように行われ、なぜ証券詐欺事件で初めて盗聴捜査が使われることになったのかを解説します。
ラジャラトナムの経歴とガリオン・グループ
ラジ・ラジャラトナムとは、1957年にスリランカのコロンボで生まれたヘッジファンドマネージャーであり、ガリオン・グループの創業者です。
スリランカでの名門校を経てイギリスのサセックス大学で工学を学び、その後ペンシルベニア大学ウォートン・スクールでMBAを取得しました。チェース・マンハッタン銀行で融資担当としてキャリアを始め、その後ニーダム・アンド・カンパニーでエクイティリサーチのアナリストとして頭角を現し、同社の社長にまで上り詰めています。
1997年にガリオン・グループを設立。テクノロジーとヘルスケア分野への積極的な投資で急成長を遂げ、最盛期には約70億ドルの資産を運用するまでになりました。2008年にはフォーブス誌の全米富豪400人ランキングに名を連ね、個人資産は10億ドル以上と推定されています。スリランカの津波被害への500万ドルの寄付など、慈善活動でも知られていました。
広範な内部情報ネットワーク
ラジャラトナムの不正利益の源泉は、複数の大企業の役員・幹部から構成された広範な情報ネットワークでした。
最も重要な情報提供者は、ゴールドマン・サックスの取締役でありマッキンゼーの元CEOだったラジャット・グプタでした。グプタはゴールドマン・サックスの取締役会で得た機密情報をラジャラトナムに漏洩しています。その中には、2008年9月にウォーレン・バフェットのバークシャー・ハサウェイがゴールドマンに50億ドルを出資するという未公表の情報も含まれていました。
ラジャラトナムはこの情報を入手した直後にゴールドマン株17万5000株を購入し、翌朝の発表後に株価が急騰して約90万ドルのほぼリスクフリーの利益を得ています。同様の手口で、インテル、AMD、クリアワイヤ、グーグル、ヒルトン、アカマイ・テクノロジーズなど複数の大企業の未公開情報を使った取引が繰り返されていました。
政府の調査によれば、ガリオンのインサイダー取引による不正利益は合計で約7200万ドルに達しています。

この事件は、インサイダー取引が被害者のいない犯罪だという主張を完全に否定するものです。ラジャラトナムがゴールドマン株を買った瞬間、その株を売った一般投資家は、翌日の値上がり分を丸ごと失ったことになります。内部情報を持つ者だけが勝ち、持たない者が負ける――それは公正な市場の根幹を破壊する行為です。
盗聴捜査と有罪判決
この事件は、証券詐欺事件としてアメリカ史上初めて盗聴(ワイヤタップ)が使われた画期的なケースでした。
従来、盗聴捜査は麻薬取引やマフィアの捜査に限定されていた手法です。しかしFBIは裁判所の許可を得てラジャラトナムの電話を傍受し、内部情報の受け渡しを録音することに成功しました。裁判では多数の盗聴録音が法廷で再生され、ラジャラトナムが未公開情報を受け取り、それに基づいて取引を指示する様子が陪審員に示されています。
弁護側は、ガリオンの取引は全て公開情報に基づく緻密な調査の結果だと主張しました。しかし2011年5月11日、陪審は14の罪状全て(証券詐欺9件、共謀5件)で有罪の評決を下しています。
2011年10月13日、ニューヨーク連邦地裁のリチャード・ハウエル判事は禁固11年と1000万ドルの罰金、5380万ドルの不正利益没収を言い渡しました。インサイダー取引に対する刑事罰としては当時史上最長であり、判事はラジャラトナムの犯罪はビジネス文化のウイルスであり、根絶しなければならないとコメントしています。
この事件を契機に、25人以上の関係者が起訴され、21人が有罪答弁に応じました。情報提供者のグプタは共謀罪と証券詐欺3件で有罪となり禁固2年の判決を受けています。ラジャラトナムは約7年半を服役した後に出所し、2023年に回顧録を出版しました。
まとめ
- ラジャラトナムはゴールドマン・サックスの取締役を含む広範な情報ネットワークから未公開情報を入手し、約7200万ドルの不正利益を得た
- 証券詐欺事件として史上初めて盗聴捜査が適用され、14の罪状全てで有罪。禁固11年という当時最長のインサイダー取引の刑罰が科された
- 内部情報に基づく取引は公正な市場の根幹を破壊する犯罪だ。一般投資家は、自分の取引相手が内部情報を持っている可能性を常に意識しておく必要がある
よくある質問
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Qインサイダー取引はなぜ違法なのですか?
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A
インサイダー取引は、一般に公開されていない重要情報に基づいて株式などの証券を売買する行為であり、市場の公正性を根本から損なうため違法とされています。内部情報を持つ者だけが確実に利益を得られる構造は、一般投資家の信頼を破壊し、資本市場の健全な機能を妨げるためです。
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Q日本でもインサイダー取引の摘発は行われていますか?
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A
日本でも金融商品取引法に基づきインサイダー取引は厳しく規制されています。証券取引等監視委員会が監視を行い、毎年複数の摘発事例があります。日本では5年以下の懲役または500万円以下の罰金(法人の場合は5億円以下)が科される可能性があります。
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Qラジャラトナムは現在どうしていますか?
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A
約7年半の服役を経て出所しています。出所後の2023年に回顧録Uneven Justiceを出版し、検察の過剰な追求があったと主張しています。上場企業の経営に関与することは禁じられており、現在は公の場にほとんど姿を見せていません。
【出典】参考URL
- Wikipedia:Raj Rajaratnam:経歴、逮捕、裁判の詳細
- Britannica:ラジャラトナムの伝記・事件概要
- Ethics Unwrapped(テキサス大学):インサイダー取引の倫理的分析
- Seven Pillars Institute:ラジャラトナム事件のケーススタディ


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