- 訪問介護最大手のコムスンは介護報酬の過大請求と事業所指定基準の偽装を全国規模で行っていた
- 不正が発覚すると指定取り消し処分の前に廃業届を提出して処分を回避。さらにグループ内子会社への事業譲渡で行政処分を骨抜きにしようとした
- 厚労省が新規・更新指定を不許可とし、2081カ所のうち1655カ所が事実上閉鎖。利用者6.5万人と職員2.4万人に甚大な影響を与えた
「ニーズより売り上げが大事」――コムスンの元職員はそう証言しています。家事援助は介護報酬が低いから断る。契約したサービスの終了時間が来れば食事づくりが途中でも帰る。利用者が目の前で倒れても、時間になれば帰る。
2007年、訪問介護サービスの最大手であるコムスンの不正が全国規模で発覚しました。介護報酬の過大請求、事業所指定基準の偽装、そして処分逃れのための脱法的な事業譲渡。この事件は介護保険制度における営利企業参入の是非を問う社会問題へと発展しています。
この記事では、コムスン事件の経緯と手口、そしてこの事件が浮き彫りにした介護制度の構造的な問題を解説していきます。
コムスンとは?介護業界の巨人
コムスンとは、訪問介護サービスで全国最大手の介護事業会社でした。グッドウィル・グループ(後のラディアホールディングス)の傘下にあり、全国に2081カ所の事業所を展開していました。
介護保険制度がスタートした2000年4月1日、コムスンは全国紙の見開き両面に巨大広告を出し、一気に1217カ所のケアセンターを開設しました。しかし、わずか2カ月後には採算が取れないとして約4割を撤退させています。この時点で、コムスンにとって介護事業が「地域の高齢者を支える」ためではなく、「利益を生む市場」として位置づけられていたことが明らかです。
親会社グッドウィル・グループの創業者・折口雅博は、ジュリアナ東京のプロデューサーとして知られ、「六本木ヒルズ族の兄貴分」と呼ばれた人物です。田園調布の7億円の豪邸、軽井沢のプール付き別荘、プライベートジェットなど、派手な生活でも注目を集めていました。
不正の手口:過大請求と処分逃れ
コムスンが行っていた不正は、大きく分けて介護報酬の過大請求と事業所指定基準の偽装の2つです。
介護報酬の過大請求
2006年12月、東京都はコムスンが介護報酬を過大請求している疑いがあるとして、都内187カ所の事業所のうち53カ所に立ち入り検査を実施しました。その結果、約4320万円の過大請求が発覚しています。実際には提供していないサービスを提供したと偽って介護報酬を請求する手口でした。
事業所指定基準の偽装
さらに都内3事業所では、事業所の指定基準(人員配置等)を偽装していることが判明しました。必要な人員を配置していないにもかかわらず、書類上は基準を満たしているように見せかけていたのです。
廃業届による処分逃れ
最も悪質だったのは、不正が発覚した同日に廃業届を提出して指定取り消し処分を回避する手口です。介護保険法では、指定取り消し処分を受けた事業者は一定期間新たな事業所の指定を受けられませんが、自主的に廃業した場合はその制限がかかりません。コムスンはこの法の抜け穴を利用して、処分の前に廃業届を出し、別の場所で新たに事業を始めるという方法を全国で繰り返していました。

不正が発覚した同日に廃業届を出すという手口は、法律の想定外をつく脱法行為の典型です。形式的には合法でも、その行為が法の趣旨を完全に骨抜きにしている。コムスン事件は「合法と適法は違う」ということを教えてくれます。
行政処分と見せかけ譲渡
2007年6月6日、厚生労働省はコムスンに対し介護サービス事業所の新規および更新指定を不許可とする処分を下しました。この処分は事実上「介護事業の継続不可」を意味していました。
しかし同日、親会社グッドウィル・グループは同グループの子会社「日本シルバーサービス」へコムスンの事業を譲渡すると発表しました。形式上は別法人であるため、コムスンへの処分は日本シルバーサービスには及ばないという理屈です。
この動きに対し「行政処分を骨抜きにする脱法行為」との批判が殺到しました。当時の塩崎恭久官房長官も「十分な精査が必要」と発言し、厚生労働省は事業譲渡の撤回を求める行政指導を行いました。最終的にコムスンは都道府県ごとに分割して、グループ外の事業者に事業を譲渡する方式に転換し、2009年末に法人を解散しています。
- 2000年4月介護保険制度スタートと同時に1217事業所を一斉開設全国紙の見開き広告で大々的に宣伝し、業界を圧倒。しかし2カ月後には採算が取れないとして約4割を撤退させた。
- 2006年12月東京都が立ち入り検査、過大請求4320万円を発覚都内53カ所に立ち入り検査を実施。介護報酬約4320万円の過大請求と3事業所での指定基準偽装が判明。不正発覚と同日に3事業所が廃業届を提出して処分を回避した。
- 2007年6月6日厚労省が新規・更新指定の不許可処分厚生労働省がコムスンの介護サービス事業所の新規および更新指定を不許可と決定。事実上の介護事業継続不可。同日、親会社がグループ内子会社への事業譲渡を発表するも「脱法行為」として批判殺到。
- 2007年6月7日厚労省が事業譲渡の撤回を行政指導コムスン社長を厚労省に呼び、「事業譲渡は到底国民・利用者の納得は得られない」として撤回を求めた。コムスンは最終的にグループ外への都道府県別分割譲渡に方針転換。
- 2008年3月折口雅博が会長辞任、米国へ移住グッドウィル・グループの折口雅博会長が引責辞任し、家族で米国に移住。トランプタワーに居住し和食レストランを経営。2009年に自己破産の申立てを受け、負債は312億円に達した。
- 2009年末コムスン解散事業譲渡を完了し、コムスンは法人を解散。2011年に完全消滅した。
現代に通じる教訓:営利と公共サービスの両立は可能か
コムスン事件の本質的な教訓は、株主利益を最優先する営利企業の論理と、利用者の生活を支える公共サービスの論理は根本的に衝突するという問題です。
利用者や家族が介護事業者を選ぶ際は、事業者の運営実態や行政処分の履歴を確認することが重要です。都道府県のウェブサイトでは介護事業者の情報公表制度を通じて、各事業所のサービス内容や人員体制を確認できます。また、事業所が頻繁に開設・閉鎖を繰り返している場合は注意が必要でしょう。

コムスン事件で最も被害を受けたのは、サービスを利用していた6万5000人の高齢者とその家族、そして2万4000人の職員です。不正を行ったのは経営陣ですが、そのツケを払うのは現場の弱い立場の人たちでした。介護は生活の基盤です。事業者を選ぶ際は「安さ」や「知名度」だけでなく、運営の透明性を確認する習慣を持ってください。
まとめ
- コムスンは介護報酬の過大請求と事業所指定基準の偽装を全国規模で行い、処分前に廃業届を出して逃れる脱法行為を繰り返していた
- 厚労省の処分を受けてグループ内子会社への見せかけ譲渡を試みるも批判殺到で撤回。2081カ所のうち1655カ所が閉鎖に追い込まれた
- 介護事業者を選ぶ際は行政処分履歴と運営実態の確認が不可欠。事業所の頻繁な開設・閉鎖は不正の兆候となり得る
よくある質問
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Qコムスンの利用者はどうなりましたか?
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A
コムスンの事業は都道府県ごとに分割され、グループ外の介護事業者に譲渡されました。多くの利用者は譲渡先の事業者のもとでサービスを継続しましたが、事業者の変更に伴う混乱や、なじみのヘルパーが変わるなどの影響を受けた方もいます。
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Qコムスン事件後に介護保険法は改正されましたか?
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A
はい、コムスン事件を受けて介護保険法が改正され、不正を行った事業者が処分前に廃業届を提出して再参入する抜け穴が塞がれました。指定取り消し処分の対象事業所の廃業届が提出された場合でも、一定期間は再指定を受けられない規定が設けられています。
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Q折口雅博はその後どうなりましたか?
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A
折口雅博は2008年にグッドウィル・グループの会長を辞任し、家族で米国に移住しました。2009年に自己破産の申立てを受け、負債は312億円に達しています。その後、ニューヨークのトランプタワーに居住し和食レストランを経営。2020年には自伝を出版して復活を印象づけましたが、旧グッドウィル・グループの債権者からの訴訟も報じられています。
【出典】参考URL
- コムスン – Wikipedia:設立経緯、事業所指定不正取得、日本シルバーサービスへの譲渡問題、法人解散の経緯
- コムスン事件まとめ:過大請求4320万円、3事業所の同日廃業届、厚労省処分の時系列
- 全日本民医連:利用者6.5万人・職員2.4万人への影響、元職員の証言、2081カ所のうち1655カ所閉鎖
- 折口雅博 – Wikipedia:自己破産(負債312億円)、米国移住、トランプタワー居住


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