- ブロンクス出身の商品トレーダー、ティノ・デ・アンジェリスがタンクに海水を入れ、表面だけにサラダ油を浮かせて大量の在庫があるように偽装した
- 偽の倉庫証明書を使い51の銀行から1億8000万ドル(現在の約19億ドル)の融資を詐取。アメリカン・エキスプレスの株価を50%以上暴落させた
- 1963年にケネディ大統領暗殺と同時期に発覚し、詐欺と共謀の罪で禁固7年の判決。ウォーレン・バフェットがこの暴落でアメリカン・エキスプレス株を買い集めた逸話でも知られる
油の在庫は全米の大豆油の総量を超えていた――。1963年、ニュージャージー州ベイヨンの倉庫群に保管されているとされた油の量は、アメリカ全体の大豆油と綿実油の在庫を上回っていました。しかし誰もその矛盾に気づかなかったのです。
この記事では、サラダ油のタンクに水を入れるという驚くほど原始的な手口で、ウォール街を震撼させた史上最大級の商品詐欺を解説します。
デ・アンジェリスの経歴と前科
ティノ・デ・アンジェリスとは、1915年にニューヨーク・ブロンクスでイタリア移民の両親のもとに生まれた商品トレーダーであり、サラダ油詐欺事件の首謀者です。
10代の頃から精肉・鮮魚市場で約200人の従業員を管理するなど、商才を見せていました。しかし彼の商売は最初から不正にまみれていました。国家学校給食法の制度を悪用し、アドルフ・ゴーベル社を買収して政府に3万1000ドルを過大請求したうえ、検査を受けていない200万ポンドの肉を納入したのです。この会社はやがて破産しています。
1955年、デ・アンジェリスはアライド・クルード・ベジタブル・オイル精製会社を設立。アメリカ政府のフード・フォー・ピース(途上国への食料援助計画)の契約を獲得し、植物油の国際取引ビジネスを拡大していきました。
タンクに水を入れた詐欺の手口
デ・アンジェリスの詐欺の中核は、タンクの中身を海水に入れ替え、油は表面に薄く浮かせるだけにしたことでした。
当時、アメリカン・エキスプレス(Amex)は倉庫管理事業に新規参入しており、顧客の商品在庫を担保とした融資を行っていました。Amexの検査員がタンクの上部から中身を確認すると、表面には確かに油が浮いています。しかしその下は全て海水だったのです。
一部のタンクにはサンプル採取口の下だけに油を入れた隠し区画が設置されていました。またタンク同士を配管で接続し、検査員がタンクを巡回する間に同じ油を別のタンクに移し替えるという手口も使われています。
Amexはデ・アンジェリスの在庫を保証する倉庫証明書を発行し、この証明書を持った銀行や証券会社が融資を実行しました。アメリカン・エキスプレス、バンク・オブ・アメリカ、バンク・レウミなど51の銀行から、合計で1億8000万ドル(現在の約19億ドル相当)の融資が詐取されています。
さらにデ・アンジェリスは、偽の在庫を担保に得た資金で大豆油の先物を大量に買い付け、市場を独占しようと企てました。ニューヨーク商品取引所の綿実油契約の90%をアライド社が保有するまでに至っています。先物の買い付けが価格を押し上げ、在庫の評価額が上がり、さらに多額の融資を引き出せるという自己増殖的な構造が出来上がっていたのです。

この事件で最も驚くのは、在庫量がアメリカ全土の総量を超えていたのに、誰も疑問を持たなかったという点です。農務省のデータと照らし合わせれば一目瞭然だったはずですが、高い利回りと有名企業の保証が、確認の手間を省かせてしまったのです。
信頼できるブランド名が付いているからといって、中身の確認を怠ってはいけない――これは現代の投資でも同じことが言えます。
崩壊とケネディ暗殺の同時発生
1963年11月、ソ連への穀物輸出交渉が暗礁に乗り上げると大豆油の先物価格が急落し、デ・アンジェリスの帝国は一気に崩壊しました。
証券会社からの追加保証金(マージンコール)の要求に応えられなくなったアライド社は、1963年11月19日に破産を申請。タンクの中身が海水だったことが発覚し、数億ドル規模の不正が明るみに出ました。
この崩壊は歴史的な偶然と重なります。わずか3日後の11月22日、ケネディ大統領がダラスで暗殺されたのです。パニックに陥った投資家が一斉に売りに走り、ニューヨーク証券取引所では27分間で260万株が売られ、ダウ平均は約5%(24ポイント)下落。取引所は通常より83分早く閉鎖を余儀なくされました。
アメリカン・エキスプレスの株価は50%以上暴落し、同社は約5800万ドルの損失を被りました。この暴落に目をつけたのが、若きウォーレン・バフェットです。バフェットはAmexのブランド価値と事業の本質的な強さは変わっていないと判断し、暴落した株式を大量に購入。この投資は後にバフェットの伝説的な成功投資のひとつとなりました。
デ・アンジェリスは詐欺と共謀の罪で禁固7年の判決を受け、1972年に仮釈放されています。2009年9月26日に93歳で死去しました。
まとめ
- デ・アンジェリスはタンクに海水を入れ表面に油を浮かせるという原始的な手口で、51の銀行から1億8000万ドルの融資を詐取した
- 在庫量がアメリカ全土の総量を超えていたのに誰も疑問を持たなかった。信頼できるブランド名が確認の手間を省かせてしまう危険性を示した
- 担保の現物確認を怠ったことが被害を拡大させた。信用の裏にある実体を自分の目で確認することが、詐欺から身を守る最も確実な方法だ
よくある質問
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Qなぜ検査員はタンクの中身が水だと気づかなかったのですか?
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A
油は水より軽いため、タンクの上部から検査すると表面には必ず油が見えます。デ・アンジェリスはこの物理法則を悪用しました。さらにサンプル採取口の下だけに油を入れた隠し区画を設けたり、配管で油を移動させる仕組みも用いています。検査員がタンクの底まで確認する手段を持っていなかったことが盲点でした。
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Qバフェットはこの事件でどれくらい儲けましたか?
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A
バフェットは暴落したアメリカン・エキスプレス株の約5%を購入しました。株価はその後大きく回復し、この投資はバフェットのキャリアにおける最も成功した投資のひとつとなりました。アメリカン・エキスプレスは現在もバフェットの持株会社バークシャー・ハサウェイの最大保有銘柄のひとつです。
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Qこの事件は制度改革につながりましたか?
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A
倉庫管理(フィールドウェアハウジング)の慣行が大幅に見直され、在庫検証手続きと取引所の保証金要件が強化されました。また、この事件はニューヨーク商品取引所の終焉を直接的に招き、商品取引に対する規制監視体制の強化につながっています。
【出典】参考URL
- Wikipedia:Salad oil scandal:事件の全容、市場への影響
- Wikipedia:Tino De Angelis:経歴、前科、判決
- Fundamental Finance Playbook:サラダ油詐欺とバフェットの投資
- The Tontine Coffee-House:アメリカン・エキスプレスへの影響の詳細分析


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