- 英国の美術教師ジョン・マイアットは、妻に去られた後に生活費を稼ぐため有名画家のスタイルで描いた絵画を販売し始めた
- 共犯者ジョン・ドリューは美術館のアーカイブに偽の来歴書類を紛れ込ませるという前代未聞の手口で贋作に本物の証明を与え、クリスティーズやサザビーズで売りさばいた
- スコットランドヤードは本件を20世紀最大の美術詐欺と認定。マイアットは懲役1年(実質4ヶ月で出所)、ドリューは懲役6年の判決を受けた
本物の贋作あります。19〜20世紀の絵画、150ポンドから――。ジョン・マイアットがPrivate Eye誌に出した広告は、正直そのものでした。しかしこの広告が、ひとりの詐欺師の目に留まったことで、マイアットの人生は一変します。やがてマティス、シャガール、ジャコメッティの名を冠した200点以上の偽作が世界の美術市場に流れ込み、美術鑑定の歴史そのものが書き換えられることになったのです。
この記事では、子育てに追われた元教師と天才的な詐欺師のコンビがいかにして世界の美術界を欺いたのか、その手口と結末を解説します。
マイアットの経歴と偽造の始まり
ジョン・マイアットとは、1945年に英国スタッフォードシャーで農家の息子として生まれた画家であり、20世紀最大の美術詐欺の実行犯として知られています。
美術学校で学び、他の画家のスタイルを模倣する才能を見出しましたが、当初は友人のために描く程度でした。作詞家としても活動した時期がありましたが、1985年に妻に去られた後、2人の幼い子供を育てるために教職を辞め、自宅で収入を得る方法を模索し始めます。
マイアットは有名画家のスタイルで描いた絵画を本物の贋作(Genuine Fakes)と銘打ち、Private Eye誌に150ポンドからという広告を出しました。これ自体は違法ではありません。しかしこの広告を見て接触してきたのが、後に共犯者となるジョン・ドリューでした。
ジョン・ドリューの天才的な手口
この事件の真の首謀者は、核物理学の教授を自称するジョン・ドリューでした。ドリューがマイアットに最初のキュビスム画家アルベール・グレーズ風の絵画を依頼し、それをクリスティーズに持ち込んだところ、2万5000ポンドで売却に成功。利益の半分を受け取ったマイアットは、ドリューの共犯者となっていきます。
ドリューの手口が他の美術詐欺と一線を画していたのは、美術館のアーカイブに偽の書類を紛れ込ませたという点です。裕福なコレクターを装って美術館に接近し、重要なアーカイブにアクセスする権限を得ました。そしてそこに偽の来歴書類を追加したり、本物の絵画の来歴情報を改ざんしてマイアットの贋作と結びつけたりしたのです。
コレクターや鑑定家が絵画の真贋を確認する際に参照するのは、まさにこれらの美術館のアーカイブです。ドリューはその根幹を汚染することで、贋作に本物であるという証明そのものを与えることに成功しました。マイアットの絵画は、マティス、シャガール、ジャコメッティ、ル・コルビュジエ、ベン・ニコルソンなどの作品としてクリスティーズ、サザビーズ、フィリップスのオークションハウスや、ロンドン、パリ、ニューヨークの美術商を通じて売却されています。
発覚・裁判・その後
マイアットは1993年にドリューとの関係を断ち切りましたが、1995年にドリューの元パートナーが警察に通報したことで事件が発覚しました。
スコットランドヤードの美術・骨董品課が4年にわたる捜査を行い、1996年4月にドリューのギャラリーを強制捜査。真正性を偽造するために使用したタイプライター、盗まれた書類、偽造のスタンプなどが押収されました。マイアットは捜査に全面的に協力し、ドリューを起訴するための証拠を提供しています。
1999年2月、マイアットは詐欺共謀の罪で懲役1年の判決を受けましたが、捜査への協力と模範的な態度が評価され、わずか4ヶ月で出所しています。一方のドリューは懲役6年を言い渡され、2年間服役しました。警察の推定では約200点の贋作が制作されましたが、回収されたのは約60点にとどまり、残りの約120点以上は今も美術市場に出回っている可能性があります。

マイアットの物語で最も興味深いのは、出所後の展開です。獄中でブリクストン刑務所の職員から絵画の注文を受け、彼を逮捕した刑事や裁判の法廷弁護士からも作品を依頼されました。現在は合法的に有名画家のスタイルで描いた絵画を本物の贋作として販売し、Sky Artsのテレビ番組にも出演しています。さらに警察やサザビーズ研究所に美術詐欺のアドバイザーとしても協力しています。犯罪者から専門家へと転身した稀有な事例です。
まとめ
- マイアットは200点以上の名画を偽造し、共犯者ドリューが美術館のアーカイブに偽の来歴書類を紛れ込ませることで贋作に本物の証明を与えた
- スコットランドヤードは20世紀最大の美術詐欺と認定。約120点以上の贋作が今も美術市場に出回っている可能性がある
- 美術品の真贋は来歴(プロヴナンス)に大きく依存するが、その来歴自体が改ざん可能であることを示した。美術品投資においても、出所の確認は一段と慎重に行う必要がある
よくある質問
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Qマイアットの贋作はまだ市場に出回っていますか?
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A
その可能性は高いです。警察が回収できたのは約200点のうち約60点にとどまっており、残りの約120点以上は発見されていません。個人のコレクターが購入したものが多く、贋作と気づかないまま保有している、あるいは気づいても公にしていないケースが考えられます。
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Qマイアットは現在何をしていますか?
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A
出所後は合法的に画家として活動しています。有名画家のスタイルで描いた絵画を本物の贋作(Genuine Fakes)として販売し、世界中にコレクターを持っています。Sky Artsのテレビ番組にも出演しているほか、警察やオークションハウスに美術詐欺に関するアドバイザーとしても協力しています。
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Qなぜクリスティーズやサザビーズが騙されたのですか?
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A
最大の要因は、ドリューが美術館のアーカイブに偽の来歴書類を紛れ込ませたことです。オークションハウスが絵画の真贋を確認する際に参照するアーカイブ自体が汚染されていたため、通常の検証プロセスでは偽造を見抜くことができませんでした。また、以前は知られていなかった名作の発見が相次ぐこと自体が不自然であるという点への警戒も不十分でした。
【出典】参考URL
- Wikipedia:John Myatt:経歴、ドリューとの共犯関係、裁判と判決
- Genuine Fakes公式サイト:マイアット本人による経歴と現在の活動
- Winterthur Museum:展示 Treasures on Trial におけるマイアット事件の解説
- St Andrews Law Review:マイアットの偽造に関する法的分析


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