- USAトゥデイの看板外国特派員ジャック・ケリーは21年間のキャリアを通じて記事の捏造を繰り返し、ピュリツァー賞に5回ノミネートされた
- エルサレムの自爆テロ、コソボの民族浄化命令、キューバからの脱出劇など少なくとも8本の主要記事の重要部分が捏造と判明。他紙からの盗用も発覚した
- 内部調査への妨害として知人に台本を渡して偽の情報源を演じさせるという工作まで行っていた。2004年に辞任し、編集長も引責辞任に追い込まれた
これは私のものだ――。パキスタンの学生がシアーズ・タワーの写真を広げてそう言った。2001年にケリーが書いた記事の一場面です。しかし調査の結果、この場面は創作でした。エルサレムでの自爆テロの目撃証言も、コソボでの民族浄化命令の発見も、全てケリーの頭の中で作られた物語だったのです。
この記事では、アメリカ最大の全国紙の看板記者が21年間にわたり記事を捏造し続け、発覚後にはジャーナリズムの根幹を揺るがした事件の全貌を解説します。
ケリーの経歴と栄光
ジャック・ケリーとは、USAトゥデイで21年間のキャリア全てを過ごした外国特派員です。
ケリーはパキスタン、キューバ、イスラエル、コソボ、ロシア、チェチェン、エジプトなど世界各地の紛争地帯や危険地域から劇的な記事を送り続け、社内で最も著名な記者となりました。ピュリツァー賞に5回ノミネートされるなど、ジャーナリズムの最高峰で評価されていた人物です。
2001年にはエルサレムの自爆テロを目撃したとする記事でピュリツァー賞の最終候補にもなっています。この記事でケリーは爆発の瞬間を生々しく描写し、3人の被害者が首を切断されたと報じていました。
捏造の手口と発覚
2004年1月、ベオグラードの人道法センターのナターシャ・カンディッチが、1999年のコソボに関する一面記事で自分が情報源として使われたというケリーの主張を否定したことが、捏造発覚のきっかけとなりました。
USAトゥデイは5人の記者と1人の編集者によるチームを編成し、7週間にわたる徹底的な内部調査を実施しました。調査チームはキューバ、イスラエル、セルビアに調査員を派遣し、ホテルの記録を精査してケリーが記事を出稿した時に本当にその場所にいたかどうかを検証しています。
調査の結果、少なくとも8本の主要記事の重要部分が捏造されていたことが判明しました。具体的には以下の記事が問題視されています。
| 記事の内容 | 捏造の実態 |
|---|---|
| エルサレムの自爆テロの目撃(2001年) | 爆破犯とされた人物は実際の犯人ではなく、首切断の描写は警察の報告と矛盾 |
| コソボの民族浄化命令(1999年) | 情報源とされた人物が関与を否定 |
| パキスタンの学生のテロ計画(2001年) | 証拠が裏付けられず |
| エジプトのテロリストとの一夜(1997年) | ホテル記録等の証拠と矛盾 |
| キューバからのボート脱出(2000年) | ホテル従業員の写真を使い架空の人物の物語を創作 |
さらにケリーは他紙からの引用や素材の盗用、USAトゥデイを代表して行った講演での虚偽も発覚しています。
調査妨害の工作
ケリーの捏造の中で最も衝撃的だったのは、内部調査を妨害するために知人に台本を渡していたことです。
ケリーのコンピューターから発見されたファイルには、少なくとも3人の知人に対して偽の情報源を演じさせるための台本が含まれていました。記者がケリーの記事の裏取りを試みた際、これらの知人が台本通りに応答して記事の正当性を偽証する仕組みでした。
ケリー自身は捏造も盗用もしていないと主張し、はめられている気がすると編集者に語りましたが、2004年1月に辞任しました。その後、外部から招かれた3人の著名な元編集者(ビル・ヒリアード、ビル・コバッチ、ジョン・セイゲンセイラー)で構成される調査パネルは、ケリーの行為を公的信頼の悲しく恥ずべき裏切りと断じています。
この事件の責任を取り、USAトゥデイの編集長カレン・ユルゲンセンも引責辞任しました。発行人クレイグ・ムーンは一面に謝罪文を掲載しています。

ケリーの事件が示す教訓は、遠い戦場からの劇的な目撃談は検証が極めて困難であるという構造的な弱点です。砂漠のどこかにいるモハメッドのテロ計画の引用をどうやって裏取りするのか。それがまさにケリーが悪用した盲点でした。ニューヨーク・タイムズのジェイソン・ブレア事件、ニュー・リパブリックのスティーヴン・グラス事件と並び、ジャーナリズムの検証体制の根本的な見直しを迫った事件です。
まとめ
- USAトゥデイの看板記者ケリーは21年間にわたり記事の捏造を繰り返し、ピュリツァー賞に5回ノミネートされるほどの虚偽の栄光を築いた
- 少なくとも8本の主要記事が捏造と判明。偽の情報源を知人に演じさせる台本まで作成し、内部調査を妨害していた
- 戦場や危険地帯からの劇的な体験談は検証が困難という構造的弱点がある。読者もメディアも、あまりに劇的な目撃談には健全な懐疑心を持つべきだ
よくある質問
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Qケリーは逮捕されましたか?
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A
ケリーは刑事訴追されていません。記事の捏造はジャーナリズムの倫理違反であり、解雇や辞任の対象にはなりますが、通常は刑法上の犯罪としては立件されません。ケリーは2004年1月に辞任し、それ以降はメディア業界から姿を消しています。
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Q同様の記事捏造事件は他にもありますか?
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A
アメリカのジャーナリズム史では同様の事件が複数発生しています。2003年にはニューヨーク・タイムズのジェイソン・ブレアが35本以上の記事で盗用と捏造を行い解雇されました。それ以前の1998年にはニュー・リパブリック誌のスティーヴン・グラスが27本の記事を捏造しています。いずれの事件もアメリカの報道機関全体で倫理規定の見直しと検証体制の強化が行われるきっかけとなりました。
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Qなぜ21年間も捏造が発覚しなかったのですか?
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A
ケリーが担当していた外国特派員の記事は、構造的に検証が困難だったためです。紛争地帯の匿名の情報源や戦場での体験談は、編集部がデスクから裏取りすることがほぼ不可能です。また、ケリーは社内で最も著名な記者であり、5回のピュリツァー賞ノミネートという実績が疑いの目を向けにくくしていました。スター記者に対する過度な信頼が検証の不足を生んだのです。
【出典】参考URL
- Wikipedia:Jack Kelley:経歴、捏造の発覚、台本工作
- NBC News:USAトゥデイの調査結果と捏造記事の詳細
- CBS News:8本の主要記事の捏造とピュリツァー賞候補の経歴
- PBS NewsHour:編集長の辞任と検証体制の議論


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