- 英国ボルトンのショーン・グリーンハルグは自宅の庭の小屋で、レオナルド・ダ・ヴィンチからゴーギャン、古代エジプトの彫像まで驚異的な多様性の贋作を17年間にわたり制作した
- 高齢の両親が販売役を担い、大英博物館やシカゴ美術館を含む世界中の美術館・オークションハウスを欺いて約100万ポンドを得た
- スコットランドヤードは一家をおそらく史上最も多様な偽造チームと評した。2007年に有罪判決を受け、懲役4年8ヶ月が言い渡されている
彼の唯一の関心事は、庭の小屋だった――。弁護人はグリーンハルグをそう評しました。16歳で学校を中退し、正規の美術教育を受けたことのない内向的な男が、世界の一流美術館を次々と騙していったのです。石器時代の遺物からモダンアートまで、あらゆる時代・ジャンルの贋作を生み出した庭小屋は、後にロンドン警視庁が実物大のレプリカを作るほどの伝説となりました。
この記事では、独学の天才がなぜ世界の美術界を翻弄できたのか、その手口と発覚の経緯を解説します。
グリーンハルグの経歴と偽造の始まり
ショーン・グリーンハルグとは、1961年にイングランド北部ボルトンで生まれた芸術家兼贋作師であり、史上最も多様な偽造を行った人物として知られています。
グリーンハルグは13歳の頃にローマを訪れたことがきっかけで美術に魅了され、庭の小屋で贋作を作り始めたとされています。16歳で学校を中退し、資格を持たないまま独学で技術を磨きました。美術書、カタログ、写真、そして美術館への訪問を通じて各時代の様式や技法を研究し、絵画、彫刻、レリーフ、金属細工に至るまであらゆる分野の作品を制作しています。
1989年頃から本格的な偽造と販売を開始し、高齢の父ジョージが骨董品のディーラーを装って販売の窓口を担当しました。作品の来歴(プロヴナンス)も周到に捏造されており、曽祖父がオークションで購入したものや、ボルトン市長の清掃員だった先祖が譲り受けたものなど、もっともらしい家族の物語が仕立てられていたのです。
世界の美術館を騙した驚異の贋作
グリーンハルグの贋作の最大の特徴は、時代もジャンルも全く異なる作品を次々と制作できた多様性にあります。
最も有名な贋作はアマルナ・プリンセスです。古代エジプトのアマルナ時代の王女像を模した彫像で、ボルトン博物館が2003年に44万ポンドで購入しました。博物館はこの取得を大きな成果と誇り、父ジョージのことを自分の持ち物の価値を知らない善良な老紳士と評しています。
シカゴ美術館はグリーンハルグが制作したゴーギャン風の彫刻ファウンを重要な再発見と位置づけ、ゴーギャンの決定版展覧会に出品しました。このほかにもL.S.ラウリーの絵画、レオナルド・ダ・ヴィンチのスケッチ、エドガー・ドガの作品、アメリカ大統領の胸像、アングロサクソンのブローチなど、制作された贋作のリストは膨大です。
グリーンハルグの技法は家庭用品を巧みに活用したものでした。石膏で型を作り、蝋で古びた質感を再現し、時代に合った素材を使用することで何世紀もの経年変化を偽装しています。16世紀の羊皮紙に描くなど、素材の真正性にもこだわりを見せていました。

この事件で最も皮肉なのは、世界の一流美術館が贋作を本物と鑑定して喜んでいたという点です。シカゴ美術館はゴーギャンの重要な再発見と称し、ボルトン博物館は大きな功績と誇りました。専門家が騙されたのではなく、発見に興奮するあまり自ら騙されにいったとも言えます。見たいものを見てしまうのは、専門家も例外ではないのです。
発覚と有罪判決
グリーンハルグの偽造帝国が崩壊したのは、アッシリアのレリーフ3点を売ろうとした際に大英博物館が偽造を見抜いたことがきっかけでした。
オークションハウスのボナムズが大英博物館に鑑定を依頼したところ、馬の手綱が他のアッシリア・レリーフと一致しないこと、そして楔形文字の碑文にスペルミスと消えた発音記号が含まれていることが発見されました。王の目に触れる作品にそうした誤りがあることは極めて不自然だったのです。さらに父ジョージが低い価格で手放そうとしたことが疑惑を決定的にしました。
大英博物館は警察に通報し、約18ヶ月間の捜査が行われました。2006年3月にグリーンハルグ一家は逮捕され、自宅と庭の小屋から型、顔料、彫刻道具、未完成の作品が大量に押収されています。
2007年、ボルトン刑事法院でグリーンハルグに懲役4年8ヶ月の判決が下されました。母親には12ヶ月の執行猶予付き判決が言い渡されています。スコットランドヤードは一家をおそらく史上最も多様な偽造チームと評しました。
グリーンハルグは獄中で自伝A Forger’s Taleを執筆し、出所後に出版しています。2010年にはヴィクトリア&アルバート博物館が彼の贋作の展覧会を開催するなど、その技術は犯罪としてではなく芸術として再評価される動きも見られています。
まとめ
- グリーンハルグは庭の小屋で17年間にわたり、石器時代からモダンアートまで驚異的な多様性の贋作を制作した
- 大英博物館やシカゴ美術館を含む世界中の美術館を欺いたが、アッシリア・レリーフの楔形文字のスペルミスという細部で発覚した
- 美術品の鑑定において専門家も発見の興奮に目を曇らせることがある。来歴の検証と科学的分析の両方が不可欠であることを示した事件だ
よくある質問
-
Qグリーンハルグの贋作は全て回収されましたか?
-
A
全ては回収されていません。警察は約50点の疑わしい作品について法科学的検査を行いましたが、個人のコレクターに売却された作品の多くはまだ発見されていないと考えられています。個人コレクターは贋作を掴まされたことを公にしたがらないため、被害の全容は把握しきれていない状況です。
-
Qアマルナ・プリンセスはどうなりましたか?
-
A
ボルトン博物館が44万ポンドで購入した古代エジプト風の彫像は、グリーンハルグの代表的な贋作のひとつとして認定されました。博物館は事件発覚後に自分たちは落ち度がないと主張しましたが、この彫像は贋作の象徴として美術偽造の歴史に刻まれることになりました。
-
Qグリーンハルグは現在も活動していますか?
-
A
出所後もボルトンで暮らしており、自伝A Forger’s Taleを出版しています。獄中で執筆されたこの本は、レオナルドのスケッチからラウリーの絵画、石器時代の芸術まで、彼の驚異的な偽造キャリアの詳細を語っており、批評家からも高い評価を受けています。
【出典】参考URL
- Wikipedia:Shaun Greenhalgh:経歴、贋作の一覧、発覚と裁判の詳細
- Grokipedia:偽造技法と捜査の経緯


コメント