マーティン・シュクレリとは?ファーマブロ事件の全貌

詐欺事件
マーティン・シュクレリとは?ファーマブロ事件の全貌を3行で要約
  • ヘッジファンド出身のマーティン・シュクレリは、HIV治療に使われるダラプリムの価格を1錠13.50ドルから750ドルへ約5000%値上げし、全米で最も嫌われた男と呼ばれた
  • 薬価の値上げ自体ではなく、以前に運営していたヘッジファンドでの証券詐欺で有罪となり禁固7年の判決。投資家をポンジ・スキームのように欺いていた
  • 別途、独占禁止法違反でも有罪となり6460万ドルの返還と製薬業界からの永久追放が命じられた。2022年5月に出所している

シュクレリが逮捕された後も、彼はTwitterで検察官を二軍と嘲り、議会の公聴会では終始にやにやと笑い続けていました。アメリカでは大統領候補のヒラリー・クリントンが価格つり上げだと非難し、ドナルド・トランプは甘やかされた小僧と切り捨てています。

この記事では、なぜ1人の若い起業家がアメリカの医療・金融・政治を同時に揺るがす存在となったのか、薬価問題と証券詐欺の両面からその全貌を解説します。

シュクレリの経歴とウォール街でのキャリア

マーティン・シュクレリとは、1983年にニューヨーク・ブルックリンで生まれたヘッジファンドマネージャー兼製薬会社CEOであり、ファーマブロ(Pharma Bro)の異名で知られる人物です。

両親はアルバニアから移住したローマ・カトリック教徒で、ビル管理人として働いていました。シュクレリは金融の世界に早くから足を踏み入れ、ヘッジファンドのクレイマー・バーコウィッツでアソシエイトとして勤務した後、2006年に最初のヘッジファンドElea Capital Managementを設立しています。

しかし2007年にはリーマン・ブラザーズから訴訟を起こされるなど、初期から問題を抱えていました。その後もMSMB Capital Management、MSMB Healthcareと次々にファンドを立ち上げ、さらに製薬会社レトロフィンを設立。しかしこれらのファンドでは投資家の資金を失い、前のファンドの投資家への支払いに次のファンドの資金を流用するという構造が出来上がっていました。

ダラプリム5000%値上げの衝撃

2015年9月、シュクレリが設立したチューリング・ファーマシューティカルズがHIV治療薬ダラプリムの価格を1錠13.50ドルから750ドルへ約5000%引き上げたことで、世界的なスキャンダルとなりました。

ダラプリムは1950年代に開発された抗寄生虫薬で、トキソプラズマ症の標準治療薬です。HIV患者、がん患者、妊婦など免疫機能が低下した人にとっては命に関わる薬でした。チューリング社はダラプリムの米国での製造ライセンスを5500万ドルで取得した直後に、この劇的な値上げを実行したのです。

シュクレリはこの値上げを資本主義の正当な行為だと弁護しました。保険やプログラムによって患者は最終的に薬を手に入れられると主張しましたが、医療機関から議会、大統領選挙の候補者まで、あらゆる方面から非難の嵐が巻き起こります。シュクレリは後に病院に対して半額を提示しましたが、それでも2500%の値上げに相当するものでした。

シュクレリの値上げに対抗して、サンディエゴのインプリミス・ファーマシューティカルズ社がダラプリムのジェネリック版を1錠99セントで製造・販売を開始しました。しかし政治レベルでの薬価規制改革は実現しておらず、同様の価格つり上げが他の希少薬でも起きうる構造は変わっていません。

証券詐欺の逮捕と裁判

2015年12月17日、シュクレリはFBIに逮捕されましたが、逮捕の理由は薬価問題ではなく、以前のヘッジファンドでの証券詐欺でした。

ブルックリンの連邦検事ロバート・ケイパーズは、シュクレリはポンジ・スキームのように会社を運営していたと述べています。MSMB Capitalでは投資家の資金を全て失い、その穴をレトロフィンの資金で埋めるという手口が繰り返されていました。

2017年の裁判で、シュクレリは8つの罪状のうち2件の証券詐欺と1件の共謀罪で有罪となり、禁固7年の判決を受けました。判決公判で彼は涙を流しながら多くの過ちを犯したと謝罪しましたが、裁判中の態度とは対照的でした。

裁判の過程でも、シュクレリの挑発的な行動は止まりませんでした。2016年2月の議会公聴会では修正第5条の黙秘権を行使して一切の質問に答えず、終始にやにやと笑い続けていました。公聴会後にはTwitterで議員たちを間抜けと呼んでいます。さらにヒラリー・クリントンの髪を手に入れた者に5000ドルを払うとオンラインで冗談を投稿し、保釈を取り消されて収監されるという事態にもなりました。

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シュクレリの事件が突きつける問題は、合法と不正の境界線です。ダラプリムの値上げ自体は当時の法律では違法ではありませんでした。しかし彼が逮捕されたのは証券詐欺という別の罪です。命に関わる薬の価格を5000%引き上げることが合法である一方、投資家を騙すことは犯罪――この矛盾は、アメリカの医療制度の根本的な問題を浮き彫りにしています。

独占禁止法違反と永久追放

証券詐欺とは別に、連邦取引委員会(FTC)と7つの州がシュクレリを独占禁止法違反で提訴しました。

2022年1月、ニューヨーク連邦地裁のデニス・コート判事は、シュクレリがダラプリムの独占を維持するために違法な手段を用いたと認定しました。具体的には、ジェネリック薬メーカーがダラプリムのサンプルを入手できないよう流通を制限し、原料の供給元を独占契約で封じるという手法で、少なくとも18ヶ月にわたりジェネリック薬の参入を阻止していたのです。

判決では6460万ドルの利益返還と、製薬業界からの永久追放が命じられました。ニューヨーク州司法長官レティシア・ジェームズは、マーティン・シュクレリはもうファーマブロではないとコメントしています。

シュクレリは約5年の服役を経て2022年5月に出所しました。上場企業の役員就任は永久に禁止されています。

まとめ

  • シュクレリはHIV治療薬ダラプリムの価格を約5000%引き上げ、全米で最も嫌われた男となった。しかし値上げ自体は当時の法律では違法ではなかった
  • 逮捕の理由はヘッジファンドでの証券詐欺。投資家の資金をポンジ・スキームのように流用し、禁固7年の判決を受けた
  • 独占禁止法違反でも有罪となり製薬業界から永久追放。命に関わる薬の価格が一企業の判断で数千%引き上げられるアメリカの医療制度の構造的問題を世界に示した事件だ

よくある質問

Q
ダラプリムの値上げで逮捕されたのですか?
A

値上げ自体では逮捕されていません。逮捕の罪状は、以前に運営していたヘッジファンドMSMB Capitalとレトロフィンでの証券詐欺です。ただし、後に連邦取引委員会が独占禁止法違反で別途提訴し、ダラプリムの独占的行為に対して6460万ドルの利益返還と製薬業界からの永久追放が命じられています。

Q
シュクレリは現在どうしていますか?
A

2022年5月に約5年の服役を経て出所しています。上場企業の役員就任は永久に禁止されており、製薬業界からも永久追放されています。服役中にも獄中から携帯電話で会社の経営に関与していたことが発覚し、厳しい処分を受けるなど、出所後の社会復帰には制約が多い状況です。

Q
日本でも同様の薬価つり上げは起きますか?
A

日本では薬価は厚生労働省が公定価格として定めているため、シュクレリのような一企業による極端な値上げは制度的に起きにくい構造です。ただし保険適用外の自由診療や、海外から個人輸入される薬については価格規制がなく、注意が必要な場面もあります。

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