- DeNAが運営した医療情報サイトWELQは、医学的根拠のない記事を1日約100本ペースで量産し、Google検索の上位を独占していた
- 第三者委員会の調査で10サイト合計約37万7千件の記事のうち最大5.6%に著作権侵害の可能性、画像約74万7千個に複製権侵害の可能性があると報告された
- この事件はGoogleがE-A-T(専門性・権威性・信頼性)を重視するアルゴリズム変更のきっかけとなり、ネット上の情報品質に転機をもたらした
体調が悪いとき、まずスマートフォンで症状を検索した経験はないでしょうか。検索結果の上位に出てくる記事が、専門家の監修もなく、医学的根拠もない内容だったとしたら、それは深刻な問題です。
2016年、東証一部上場企業のDeNAが運営する医療情報サイトWELQ(ウェルク)が、まさにその状態で運営されていたことが発覚しました。肩こりの原因を守護霊や怨霊と結びつける記事すら掲載されており、それがGoogleの検索結果の上位に表示されていたのです。
この記事では、WELQ事件の全貌と問題の本質、そしてこの事件がネット上の情報品質にもたらした変化を解説します。ネットで医療情報を検索する全ての方にとって、知っておくべき事例です。
WELQ事件の概要:何が問題だったのか
WELQ事件とは、DeNAが運営する医療情報サイトが、医学的根拠のない記事を組織的に大量生産し、検索エンジンの上位を独占していた問題です。
WELQはココロとカラダの教科書を名乗る医療キュレーションサイトとして運営されていました。2016年10月時点では約3万5千本もの記事が掲載されており、あらゆる病気や症状について検索すると、WELQの記事が最上位に表示される状態でした。
しかし、これらの記事は医療関係者の監修を一切経ていませんでした。執筆していたのは、クラウドソーシングを通じて1本あたり数千円、場合によっては数百円で雇われた、医療知識を持たないライターたちです。記事の中身は検索キーワードと指定文字数を満たせばよく、正確性は求められていなかったと複数のライターが証言しています。
組織的な記事製造の仕組み
WELQの記事は、DeNAがデータ分析でテーマと構成を決め、外部ライターに書かせる組織的な体制で作られていました。表向きは誰でも投稿できるキュレーションメディアという体裁でしたが、実態は異なります。
まずDeNAのWELQ編集部がデータ分析を行い、検索エンジンで上位を狙える記事のテーマと構成を決定します。次に、検索上位に来る記事の書き方をまとめたマニュアルを用意し、外部ライターに配布しました。このマニュアルには他サイトの記事を参考にしつつ、表現を変えて書き直す方法が含まれていたとされています。
BuzzFeed Newsが入手した外部ライターリストには、1500件以上の会員IDが記載されていました。これらのライターに医療の知識や経験が求められることはほとんどなく、最低限の文章が書けるかどうかの審査しか行われていなかったとDeNAの現役社員が証言しています。
発覚の経緯と事件の展開
WELQ問題は、2016年10月にBuzzFeed Newsが不正確な医療情報の問題を報じたことが発端となり、一気に社会問題化しました。
- 2014年10月DeNAが医療情報サイトに参入子会社DeNAライフサイエンスが医師監修の医療情報サイト「Medエッジ」を開設。しかし高コスト体質のため、2016年2月にWELQに吸収された
- 2016年9月キュレーション事業が単月黒字を達成DeNAパレット事業(10媒体)の売上は7〜9月期で約15億円に達し、9月に単月黒字を達成。低コストで大量の記事を製造するビジネスモデルが利益を生み始めた
- 2016年10月末BuzzFeed Newsが問題を報道WELQに掲載されている不確実な医療情報がGoogle検索結果の上位を独占し、良質な医療情報が見つけにくくなっていると報道された。ネット上で大きな話題となった
- 2016年11月29日WELQ全記事を非公開化DeNAがWELQの全記事を非公開とすると発表し即時実施。翌日のDeNA株価は2営業日続落した
- 2016年12月5日DeNAパレット全10サイトを非公開化WELQだけでなく、iemo、Find Travel、MERYなど全10サイトの全記事を非公開化。女性向けサイトMERYもこっそり8割以上の記事を削除していたことが暴かれた
- 2016年12月7日守安社長・南場会長が記者会見で謝罪3時間以上に及ぶ謝罪会見を実施。守安功社長は「サービスの成長を追い求める過程で、信頼できる情報を担保する体制ができていなかった」と謝罪した
- 2017年3月第三者委員会が調査報告書を公表276ページに及ぶ調査報告書が公表された。10サイト37万6671件の記事のうち最大5.6%に著作権侵害の可能性、画像472万個のうち74万7千個に複製権侵害の可能性があるとの調査結果が示された
第三者委員会が明らかにした法的問題
第三者委員会の調査報告書は、著作権侵害、薬機法違反、医療法違反の可能性を具体的な数値とともに指摘しています。
著作権の面では、DeNAが運営していた10サイトの記事37万6671件のサンプル調査の結果、複製権・翻案権侵害の可能性がある記事は推計で1.9〜5.6%とされました。さらに記事に掲載されていた画像472万4571個のうち74万7643個に複製権侵害の可能性があると報告されています。
法令違反の面では、外部から問題視されたWELQの記事19本を調査した結果、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)違反の可能性がある記事が8本、医療法違反の可能性が1本、健康増進法違反の可能性が1本確認されました。
プラットフォームの隠れみの
WELQ事件の本質的な問題は、DeNAがプラットフォームとメディアの境界を都合よく使い分けていたことにあります。
記事の責任を問われた際には、誰でも投稿できるプラットフォームだから責任はないと主張していました。しかし収益を上げる際には、自らテーマを決め、マニュアルを配布し、記事の制作を組織的に指揮するメディアとして機能していたのです。
記事広告の最低単価は2週間掲載で150万円、6本まとめると1500万円というプランも設定されていました。一方で記事の制作コストは1本あたり数千円。この巨大な利益率は、情報の正確性を犠牲にすることで成り立っていたのです。

WELQ事件で最も恐ろしいのは、東証一部上場企業が組織的にこのビジネスモデルを推進していたことです。
数千円で書かれた医学的根拠のない記事が、150万円で広告枠を販売するメディアに掲載される。この構造自体が、情報の受け手であるユーザーを欺く行為だといえます。健康に関する虚偽情報は、最悪の場合、命に関わります。
事件の原因と構造的背景
第三者委員会は、DeNAの永久ベンチャーという企業文化が免罪符として機能し、事業リスクの把握を妨げたと分析しています。
DeNAはモバイルゲーム事業の後退を受けて、キュレーション事業を次の収益の柱として位置づけていました。2014年にiemo社とペロリ社を買収してキュレーション事業に参入しましたが、買収時にこの事業に潜むリスクが十分に分析されていませんでした。
事業を拡大する過程でも、リスクに対するチェックや手当てが不十分だったため、問題の早期発見が遅れたと報告されています。さらに数値偏重の事業運営がリスク感覚を鈍らせ、自己修正を妨げる複数の要因が存在していたとも指摘されました。
WELQの前身には、著名な医師を監修に迎えた医学論文ベースの医療情報サイトMedエッジがありました。しかし正確な情報を提供するための高コスト体質が問題視され、2016年2月にWELQに吸収されています。つまりDeNAは、正確性よりもコスト効率を選択する意思決定を組織として行っていたのです。
現代に通じる教訓
WELQ事件は、ネット上の情報の信頼性を見極める力がなぜ重要なのかを示す事例です。
この事件を受けてGoogleは、医療や健康に関する検索結果の品質向上に本格的に取り組み始めました。2017年12月には日本語検索においても、信頼性の低い医療情報サイトの検索順位を下げるアルゴリズムの改善が行われています。その後導入されたE-A-T(Expertise=専門性、Authoritativeness=権威性、Trustworthiness=信頼性)という評価基準は、WELQ事件がなければこれほど早く実装されなかったかもしれません。
しかし、検索エンジンのアルゴリズムだけに頼ることは危険です。現在でもSNS上には科学的根拠のない健康情報が溢れており、インフルエンサーが根拠不明なサプリメントや健康法を推奨するケースも後を絶ちません。形を変えたWELQ的な問題は、今もなお存在しているのです。
医療情報を検索する際は、記事に医師などの専門家の監修があるかどうか、情報源として学術論文や公的機関のデータが引用されているかどうかを確認する習慣をつけてください。厚生労働省や各学会の公式サイト、信頼性の高い医療機関のサイトを直接参照することが、不正確な情報に振り回されないための最も確実な方法です。
まとめ
- DeNAのWELQは医療知識のないライターに1本数千円で記事を量産させ、プラットフォームを隠れみのにして記事の責任を回避しながら高額な広告収入を得ていた
- 第三者委員会の調査で最大5.6%の著作権侵害と複数の薬機法違反の可能性が報告され、DeNAの数値偏重の企業体質が原因と分析された
- この事件は検索エンジンのE-A-T重視への転換を促したが、SNS時代には形を変えた虚偽情報が蔓延しており、情報リテラシーの重要性は変わらない
よくある質問
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QWELQの記事で健康被害は出ましたか?
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A
WELQの記事を読んで直接的な健康被害が生じたという報告は公式には確認されていません。しかし、薬機法や医療法に違反する可能性のある記事が複数確認されており、不正確な医療情報に基づいて自己判断した結果、適切な受診が遅れるリスクは十分にあったと考えられます。
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QDeNAは法的に処罰されましたか?
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A
刑事罰は科されていません。DeNAは第三者委員会の調査報告を受けて自主的にサイトを閉鎖し、再発防止策を講じました。ただし著作権侵害の被害を受けたサイト運営者やライターからの個別の損害賠償請求は行われた可能性があります。社会的な批判による株価の下落やブランドイメージの毀損が、実質的な制裁として機能しました。
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Q現在もWELQのような問題は起きていますか?
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A
Google検索においてはE-A-T基準の導入により同種の問題は大幅に改善されています。しかしSNS上では科学的根拠のない健康情報や、AIが生成した不正確な医療記事が拡散されるケースが続いており、プラットフォームが変わっただけで本質的な問題は解消されていないといえます。
【出典】参考URL
- DeNA公式:第三者委員会調査報告書の受領及び今後の対応方針について
- BuzzFeed News:DeNAの「WELQ」はどうやって問題記事を大量生産したか
- 日本経済新聞:モラルなし DeNA医療情報サイト
- 日本経済新聞:プラットフォームを「隠れみの」 DeNA大炎上の本質


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