- リチャード・スクラシーは全米最大の外来リハビリ企業ヘルスサウスの創業者兼CEOであり、ウォール街の期待を満たすために部下に利益の水増しを指示した
- 1996年から2003年にかけて約27億ドルの架空利益が帳簿に計上された。CFO5人を含む14人の幹部が有罪を認めたが、スクラシー自身は刑事裁判で全36件の罪状について無罪となった
- その後、アラバマ州知事への贈賄で懲役約7年の判決。民事裁判では28.7億ドルの賠償を命じられたが、資産を隠しているとの疑惑が現在も続いている
数字が足りない。直せ――。スクラシーが四半期ごとに部下に告げたとされるこの一言が、アメリカ企業史上最大級の粉飾決算を生みました。直せとは、ウォール街のアナリスト予想に実際の業績が届かなかった時に、帳簿上の数字を改ざんして予想通りに見せかけろという指示です。幹部たちはこの作業をギャップを埋めると呼び、自分たちのことをファミリーと呼んでいました。
この記事では、CEOが部下に利益の捏造を命じ続けた結果、27億ドルの架空利益が帳簿に積み上がったアメリカ企業史上最大級の会計不正の全貌を解説します。
スクラシーとヘルスサウスの経歴
リチャード・スクラシーとは、1952年にアラバマ州セルマで生まれたアメリカの実業家であり、全米最大の外来手術・診断・リハビリテーション医療サービス企業ヘルスサウスの創業者です。
呼吸療法の教師としてキャリアを始めたスクラシーは、ヒューストンの医療企業ライフマークで急速に出世しました。外来の診断・リハビリクリニックのチェーン展開という構想をライフマークに提案しましたが、同社の合併で実現せず、1984年に自らヘルスサウスを設立しています。
創業2年後には株式公開を果たし、全米50州、プエルトリコ、イギリス、オーストラリア、カナダに約1800の拠点を持つ巨大企業に成長しました。スクラシーは起業家精神の象徴としてアラバマ州の名士となり、マーサ・スチュワートを招いたジャマイカでの結婚式を挙げるなど、華やかな生活を送っていました。
27億ドルの粉飾決算の手口
ヘルスサウスの粉飾決算は、1986年の株式公開直後から始まり、2003年まで15年以上にわたって継続していました。
手口はシンプルでした。四半期ごとに上級幹部がスクラシーに実際の業績とウォール街の予想との比較を報告します。実際の業績が予想に届かなかった場合、スクラシーは直せと指示。上級会計担当者が集まってどのような虚偽の会計エントリーを作れば利益を膨らませられるか話し合いました。
主な手口は、保険償還の見積額を水増しする、費用を減額するといった方法で利益を増やし、対応する資産を水増しするというものです。2002年末の時点でヘルスサウスの資産は少なくとも8億ドル(約10%)過大に計上されていました。
検察は、この粉飾によって約27億ドルの架空利益が帳簿に計上されたと主張しています。会社自身の推定では38〜46億ドルに達するとされました。ヘルスサウスは累計で15億ドル以上の利益剰余金を計上していると主張していましたが、実際には会社設立以来一貫して赤字だったのです。
スクラシーは粉飾で膨らんだ業績に基づいて給与とボーナスを受け取り、1999年以降だけで少なくとも778万株以上のヘルスサウス株を売却して個人的利益を得ていました。

スクラシー事件の本質は、ウォール街の期待に応えなければならないというプレッシャーが、いかにして企業の倫理を崩壊させるかという問題です。数字が足りないから直せという一言が、15年以上にわたる組織的な不正を生みました。投資判断をする際に、四半期ごとに常にアナリスト予想を正確に満たす企業には警戒が必要です。
刑事裁判の無罪と贈賄での有罪
2003年11月にスクラシーは85件の罪状で起訴されましたが、最終的に36件に絞り込まれました。最大650年の禁固刑と3600万ドル以上の罰金が科される可能性がありました。
驚くべきことに、CFO5人を含む14人のヘルスサウス幹部が有罪を認めて証言したにもかかわらず、2005年6月28日の陪審評決でスクラシーは全36件について無罪となりました。検察はスクラシーの直接的な関与を示す物的証拠を提示できなかったのです。裁判中、スクラシーは妻とともにキリスト教テレビ番組の司会を始めるなど、法廷外での印象操作も行っていました。
しかし無罪判決からわずか4ヶ月後の2005年10月、スクラシーはアラバマ州の元知事ドン・シーゲルマンとともに贈賄、資金洗浄、恐喝などの罪で起訴されました。2007年に有罪判決を受け、約7年の禁固刑を言い渡されています。2012年7月に出所しました。
2009年には民事裁判でヘルスサウスの粉飾に対する責任が認定され、28億7000万ドルの賠償金の支払いが命じられました。しかしスクラシーは無職で資産はないと主張しています。一方で原告側の弁護士は、スクラシーが受刑者の口座を通じて730万ドル以上の小切手を振り出すなど、資産を隠し続けていると主張しており、追及は現在も続いています。
まとめ
- スクラシーはヘルスサウスのCEOとして、ウォール街の予想を満たすために27億ドルの利益捏造を部下に指示し続けた
- 14人の幹部が有罪を認めたにもかかわらず刑事裁判で無罪に。しかし贈賄で約7年の実刑、民事裁判で28.7億ドルの賠償命令を受けた
- 四半期ごとに常にアナリスト予想を正確に満たす企業には注意が必要だ。完璧すぎる業績は粉飾の兆候である可能性がある
よくある質問
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Qなぜスクラシーは刑事裁判で無罪になったのですか?
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A
検察はスクラシーが粉飾を直接指示した物的証拠を提示できませんでした。有罪を認めた元幹部たちの証言はあったものの、裁判官はこれらの証人の信頼性に疑問を呈しました。またスクラシーの秘密録音テープも曖昧な内容にとどまっていたのです。スクラシーは「自分は委任しただけで不正を知らなかった」と一貫して主張しました。
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Qヘルスサウスはその後どうなりましたか?
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A
スクラシーの退任後、ヘルスサウスは再建専門の経営コンサルタント会社アルバレス&マーサルの支援のもとで立て直しが行われました。会計の修正再表示が行われ、事業は継続しています。後にEncompass Health Corporationに社名変更し、現在も外来リハビリテーション分野で事業を続けています。
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Q粉飾決算はどうすれば見抜けますか?
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A
一般投資家が粉飾決算を完全に見抜くことは困難ですが、いくつかの兆候があります。四半期ごとに常にアナリスト予想を正確に満たす業績、売上に対して不自然に増加する資産、営業キャッシュフローと利益の乖離、頻繁なCFOの交代などです。ヘルスサウスではCFOが5人も交代しており、これは後から見れば明らかな警告サインでした。
【出典】参考URL
- Wikipedia:Richard Scrushy:経歴、刑事裁判、贈賄での有罪判決
- SEC:ヘルスサウスとスクラシーに対する会計詐欺の訴訟
- 米司法省:27億ドルの粉飾決算での起訴プレスリリース
- Rocket City Now:資産隠しの疑惑と継続する追及


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