- ブランド品リユース大手の香港子会社で、卸取引の売上が簿外現金として流用され、実損は約8,383万円と確定した事件だ
- 発覚のきっかけは内部監査担当者の現地ヒアリングであり、帳簿の上では不正が見えなかったというのが実態だ
- 買収直後の海外子会社はガバナンスの空白期間が生まれやすく、現金の記録を1人に任せる体制が最大の穴だ
①本社の社長は現地の数字を信じ、任せきりにする。②内部監査が現地を訪ね、出納帳が二冊あると気づく。③売上の一部が簿外現金として消えていた事実が判明する。④賠償罪子が、壊れたのは金庫ではなく設計だと断じる。
海外子会社の横領が長期化する理由は、遠さそのものではありません。現地の数字を作る人と、その数字を確かめる人が同一人物になっている状態が放置されるからです。記録する権限と確認する権限が分かれていない限り、帳簿はいくらでも整った顔をします。
さらに厄介なのが現金です。銀行送金であれば足跡が残りますが、店頭買取や卸取引で動く現金は、記録に載せなかった瞬間に存在しないお金になります。海外拠点では本社の担当者が実物を数える機会がほとんどなく、現物と記録の突き合わせが年単位で行われないまま過ぎることも珍しくありません。
防ぐ側にできることは地味です。出納の記録を複数人で回す、預金残高と現金残高を第三者が定期的に照合する、抜き打ちの実査を予定に組み込む。この3点が動いているだけで、不正を続けられる期間は大きく縮みます。発覚が遅れるほど被害額は積み上がるという単純な事実を、設計に反映させておくことが肝心です。
海外に子会社や支店を持つ会社が増える一方で、その拠点の現金や帳簿を本社が実際に確認できている会社は多くありません。日本のオフィスに届くのは、現地が作った月次の数字だけというケースがほとんどでしょう。
今回取り上げるのは、ブランド品リユース事業を手がけるコメ兵ホールディングスの香港子会社で起きた資金流用の事件です。買収から間もない子会社で、卸取引の売上の一部が正規の帳簿に載らないまま流用されていたことが、社内調査で判明したと発表されています。
この記事では、発覚から刑事告訴・民事提訴までの経過を時系列で整理したうえで、なぜ組織のチェックが機能しなかったのか、そして海外拠点を持つ会社が今日から手を付けられる対策は何かを解説します。誰かを責めるための記事ではなく、同じ構造を自社に残さないための記事として読んでください。
香港子会社で約8,383万円が消えた横領事件の概要
ブランド品リユース大手の香港子会社で卸取引の売上の一部が簿外現金として流用され、実損額は約8,383万円です。舞台となったのは、コメ兵ホールディングス傘下のK-ブランドオフが持つ香港子会社BRAND OFF LIMITEDでした。
報道によれば、K-ブランドオフは2019年12月にコメ兵グループの完全子会社となりました。その翌月にあたる2020年1月、この香港子会社の経理担当社員による資金着服の疑いが判明し、着服額は約1億円の見込みとして発表されています。
コメ兵ホールディングスは2020年1月25日に社外取締役を中心とする調査委員会を設置し、外部弁護士3名と税理士1名が協力する体制で調査を進めました。2020年2月14日に公表された報告書では、実損額が約8,383万円と確定しています。
| 時期 | 発表・公表された内容 | 金額 |
|---|---|---|
| 2020年1月 | 経理担当社員による資金着服の疑いが判明 | 約1億円(見込み) |
| 2020年2月14日 | 調査委員会の報告書で実損額が確定 | 約8,383万円 |
| 2021年12月20日 | 名古屋地方裁判所への損害賠償請求訴訟 | 1億2,000万円(請求額) |

約1億円が約8,383万円になった。金額が減ったことに安心する人がいます。
私が重く見るのは別の点です。1年以上ぶんの記録が、誰にも見られていなかったという事実のほうです。
発覚から刑事告訴・民事提訴までの時系列
この事件は、発覚から約2年をかけて刑事告訴と民事訴訟の両方に発展しました。公表されている情報をもとに、経過を時系列で整理します。
- 2019年12月K-ブランドオフが完全子会社にブランド品リユース事業を手がけるK-ブランドオフが、コメ兵グループの完全子会社となりました。香港のBRAND OFF LIMITEDもグループ傘下に入ります。
- 2020年1月資金着服の疑いが判明BRAND OFF LIMITED(香港)の経理担当社員による資金着服の疑いが判明し、着服額は約1億円の見込みと発表されました。発覚のきっかけは内部監査担当者による現地でのヒアリングだったとされています。
- 2020年2月14日調査委員会が報告書を公表2020年1月25日に設置された社内調査委員会(外部弁護士3名・税理士1名が協力)が報告書を公表し、実損額を約8,383万円と確定しました。
- 2020年3月31日香港警察への刑事告訴が受理コメ兵ホールディングスは、BRAND OFF LIMITED(香港)の前代表取締役および元従業員等を対象に香港警察へ刑事告訴し、受理された旨を適時開示しました。社内調査により、対象者らが2018年8月から2019年11月にかけて卸取引の一部売上を簿外現金として流用していたことが判明したと説明されています。
- 2021年12月20日名古屋地裁に損害賠償請求訴訟コメ兵ホールディングスが旧ブランドオフ社長らを相手取り、名古屋地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提起しました。請求額は1億2,000万円で、事業承継交渉時にこの不正の存在を故意に開示しなかったことが提訴理由とされています。
なぜ社内のチェックは1年以上も機能しなかったのか
不正が長期間続いた背景として、現金の記録を特定の担当者が単独で管理していた体制が指摘されています。数字を作る人と確かめる人が分かれていない状態では、帳簿はいくらでも整った形を保てます。
現金の出納帳を1人に握らせる構造
報じられている内容によれば、この香港子会社では業者買取資金の出入り記録と、銀行への現金入金記録という2種類の現金出納帳が存在し、特定の経理担当者が単独で管理していたとされます。2つの記録を同じ人が書き、同じ人が確認する状態であれば、片方に載せない現金を作っても外からは見えません。
その後の調査では、前代表取締役と元従業員らが共謀し、卸取引で得た売上の一部を正規の会計帳簿に計上せず、簿外現金として流用していたことが判明したと説明されています。店頭の小口現金ではなく、卸売の売上という比較的まとまった資金が対象になっていた点が、被害額を押し上げた要因でしょう。
買収直後に生まれるガバナンスの空白
もう1つの論点が、完全子会社化の直後という時期です。M&Aで会社を手に入れても、現地の実務を回しているのは前からの担当者であり、内部統制の作り直しは後回しになりがちでしょう。
この事件でも、不正が行われていたとされる期間は2018年8月から2019年11月で、完全子会社化の直前までを含みます。本社側が体制を引き継ぎ、記録を実際に確認できる状態になるまでの空白期間に、不正が温存されていた可能性が読み取れます。
そして発覚のきっかけは、内部監査担当者が現地に赴いてヒアリングを行ったことだったとされています。裏を返せば、人が現地に行って直接尋ねるまで、日本側には何も見えていなかったということになります。

この事件で最初に壊れたものは、金庫ではありません。記録を二重に持たせ、確かめる人を置かなかった設計です。
信頼できる人だから任せた。その一文が、監査の代わりに使われていた可能性を私は疑います。
海外子会社の不正を防ぐためのチェックポイント
対策の中心は、記録する人と確認する人を分け、現物を見る機会を制度として組み込むことです。特別な仕組みではなく、既存の業務フローの割り当てを変えるだけで着手できます。
今日から確認できる5つのポイント
| 確認する項目 | 危険なサイン | 取るべき対応 |
|---|---|---|
| 現金出納の担当 | 同じ人が長年ひとりで記帳している | 記帳と照合を別の担当者に分ける |
| 帳簿の本数 | 用途別の出納記録が複数あり突合されていない | すべての記録を本社側でも一覧できる形にする |
| 現地への往査 | 数年にわたり本社の人間が訪問していない | 訪問と実査を年次予定に組み込む |
| 卸・法人取引 | 売上計上のタイミングを現地判断に任せている | 取引先への残高確認を本社主導で行う |
| 買収後の移行 | 旧経営陣が実務を握ったままになっている | 承継直後に権限と口座名義を棚卸しする |
買収前の調査だけでは足りない理由
この事件で提起された損害賠償請求訴訟の理由は、事業承継交渉の際に不正の存在を故意に開示しなかったという点だとされています。売り手が意図的に隠した情報は、買収前の調査で拾いきれない場合があるということでしょう。
だからこそ、買収時の調査で終わりにせず、承継後の一定期間に現地の現金と帳簿を自分たちの目で確認する工程が要ります。契約上の手当てと、実地での確認は役割が異なるものだと考えてください。

国境を越えた現金は、消えた瞬間に追いにくい資産へ変わります。刑事告訴も民事提訴も、動き出すまでに年単位の時間がかかりました。
これで完全に防げるという方法を私は提示しません。ただ、続けられる期間を短くする設計は、今日から作れます。
不正の兆候に気づいたときの相談先
社内で不正の兆候に気づいた場合は、直属の上司ではなく、内部通報窓口や監査部門など独立した経路に伝えることが基本です。証拠となる記録を保全したうえで、単独で当事者に確認しにいかないことも重要になります。
本記事で扱った事件では、会社が社外取締役を中心とする調査委員会を設置し、外部の弁護士と税理士が協力する体制で調査を行いました。社内だけで完結させず、外部の専門家を入れた点が、実損額の確定と法的手続きにつながっています。
なお、本記事では公式に確認できた連絡先以外の電話番号やURLは掲載していません。窓口を探す際は、記事末の出典に挙げた公式発表や、所属先が定める通報規程を起点にしてください。
まとめ
- 香港子会社で卸取引の売上が簿外現金として流用され、実損額は約8,383万円と確定した事案だ
- 発覚から刑事告訴と民事提訴まで約2年を要し、国境をまたいだ回収に時間がかかるのは明らかだ
- 防ぐ側の要は記録者と確認者の分離であり、買収直後の空白期間こそ最も危ない時期だ
次のアクションとして、自社に海外拠点があるなら、現金出納の記帳担当と照合担当が同一人物になっていないかを今日中に確認してください。1つの拠点を見るだけでも、体制の弱点は十分に見えてきます。
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よくある質問
-
Qこの事件は有罪が確定しているのですか?
-
A
刑事責任が確定したことを示す情報は、本記事の執筆時点では確認できていません。公表資料から分かるのは、2020年3月31日に香港警察への刑事告訴が受理された旨が適時開示され、2021年12月20日に民事の損害賠償請求訴訟が提起されたところまでです。
-
Q最初の約1億円と確定した約8,383万円の差は何ですか?
-
A
約1億円は発覚当初の見込み額で、約8,383万円は調査委員会が確定させた実損額です。2020年1月の発表段階では着服の疑いとして規模が示され、2020年2月14日公表の報告書で金額が精査されました。第一報の数字は暫定値だと理解しておくのが安全でしょう。
-
Qなぜ日本の裁判所にも訴訟が起こされたのですか?
-
A
事業承継交渉の際に不正の存在を故意に開示しなかったことが提訴理由とされているためです。コメ兵ホールディングスは2021年12月20日、旧ブランドオフ社長らを相手取り名古屋地方裁判所に1億2,000万円の損害賠償請求訴訟を提起しました。香港での刑事告訴とは別の争点になります。
-
Q中小企業でも同じことは起きますか?
-
A
規模ではなく体制の問題なので、拠点数が少ない会社でも起こり得ます。現金を数える係と記録を確認する係が同じ人になっている状態は、国内でもよく見られる構造です。海外拠点ではさらに本社の目が届きにくくなるため、担当の分離と定期的な実査を先に決めておくことが現実的な備えになります。
出典・参考URL
- https://diamond-rm.net/management/49378/ コメ兵/香港子会社の社員が1億円を着服|ダイヤモンド・チェーンストアオンライン
- https://legalsearch.jp/portal/daisanshaiinkai/komehyo/ コメ兵グループ会社社員による横領に関する社内調査委員会の解説|LegalSearch
- https://www.komehyo.co.jp/news/%E3%80%8Cbrand-off-limited%EF%BC%88%E9%A6%99%E6%B8%AF%EF%BC%89%E5%89%8D%E4%BB%A3%E8%A1%A8%E5%8F%96%E7%B7%A0%E5%BD%B9%E5%8F%8A%E3%81%B3%E5%85%83%E5%BE%93%E6%A5%AD%E5%93%A1%E7%AD%89%E3%81%AB%E5%AF%BE.html BRAND OFF LIMITED(香港)前代表取締役及び元従業員等に対する刑事告訴に関するお知らせ|株式会社コメ兵
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