- 第三者委員会の調査で25試験項目・174件の不正が認定され、対象は64車種・3エンジンに及んだ
- 衝突試験のタイマー加工や排ガス試験前の触媒差し替えなど、消費者から見えない工程が操作されていた
- 真因は個人の悪意ではなく、間に合わないと言えない組織だと第三者委員会は結論づけた
この4コマで描いたのは、悪人が私利私欲で暴走する構図ではありません。目の前の日程に間に合わせるため、担当者がここだけ整えておくという小さな判断を積み重ねる場面です。認証試験は国の基準に適合しているかを確かめる工程であり、ここが崩れると、市場に出た後の安全性を誰も検証できなくなります。
厄介なのは、一度この処理をすると次の車種でも同じ処理が必要になる点でしょう。前回の記録と整合を取らなければならないため、嘘が嘘を呼ぶ構造ができあがります。ダイハツ工業の事例で問題が長期化した背景にも、報告できない環境の放置があったと第三者委員会は指摘しています。
防ぐ側の視点で見ると、監視すべきは担当者の倫理観よりも、日程が動かせない前提で仕事が組まれていないかという設計そのものになります。無理ですと言える報告ルートが存在するか。この一点は業種を問わず、あなたの職場でも今すぐ点検できるチェック項目です。
クルマを買うとき、私たちは衝突試験や排ガス試験の結果を自分の目で確かめることができません。国の認証を通っているという事実を、そのまま信頼の根拠にしています。
その見えない工程で何が起きていたのかを、企業自身が公表した第三者委員会の調査結果と、国土交通省の公表資料から追ったのがこの記事です。数字の羅列ではなく、なぜ長期間止まらなかったのかという組織の話として整理しました。
製造業に限らず、親会社から業務量や要求水準を一気に引き上げられた経験のある方には、他人事に見えない論点が含まれています。
ダイハツの認証不正とは何だったのか
ダイハツ工業の認証不正は、クルマの販売に必要な国の認証試験で不適切な処理が行われていた問題です。第三者委員会は25の試験項目・174件の不正を認定しました。
この件数は2023年(令和5年)12月20日に公表された第三者委員会の調査結果に基づくものです。対象は64車種・3エンジンにのぼり、ダイハツブランドの車種だけでなく、トヨタ・マツダ・スバルへOEM供給していた車種も含まれていました。
| 項目 | 内容 | 時点 |
|---|---|---|
| 不正が認定された試験項目 | 25項目 | 2023年12月20日公表 |
| 不正の件数 | 174件 | 2023年12月20日公表 |
| 対象範囲 | 64車種・3エンジン | 2023年12月20日公表 |
| 型式指定の取消 | 3車種 | 2024年1月26日 |
174件という数字は、対象64車種で単純に割ると174÷64=約2.7件になります。特定の1車種で集中的に起きた事故ではなく、車種をまたいで薄く広く発生していたことが分かる数字です。
読者が警戒すべきなのは、大手メーカー製であることが安全性の保証にはならない場面があるという事実でしょう。ブランドや看板ではなく、リコール情報や行政処分の公表を確認する習慣のほうが実利があります。
発覚から処分完了までのタイムライン
発覚は2023年4月のドア関連試験の不正が起点で、最終的な処分の確認完了は2024年6月です。約1年2か月かけて全体像が明らかになりました。
- 1989年7月〜2000年3月最も古い不正の時期確認されている限りで最も古い不正は、この時期に販売されていたセダンのアプローズで行われたと報じられています。発覚までの期間は30年以上に及ぶ計算になります。
- 2023年4月〜5月試験不正の発覚2023年4月にドア関連の試験不正が明らかになり、翌5月にはポール側面衝突試験の不正が判明しました。ここから全社調査へと拡大します。
- 2023年12月20日第三者委員会の調査結果公表と全車出荷停止25試験項目・174件、対象64車種・3エンジンという調査結果が公表されました。同日、ダイハツは国内外で販売する全車種の出荷を停止するという異例の対応を取っています。
- 2024年1月16日〜1月26日是正命令と型式指定の取消2024年1月16日に国土交通省が是正命令を発出し、特に悪質とされた3車種について型式指定取消しの手続きを開始しました。同年1月26日、グランマックス、タウンエース、ボンゴの各トラックタイプ計3車種の型式指定が正式に取り消されています。
- 2024年1月19日〜6月25日出荷停止の解除と基準適合性確認の完了基準適合性の検証が済んだ車種から順次、出荷停止が解除されました。2024年6月25日には型式指定取消となった3車種について基準不適合が確認され、リコール実施が指導されるとともに、すべての対象車種・エンジンで基準適合性の確認が完了しています。
出荷停止の解除は一斉ではなく、7回に分けて段階的に行われました。以下がその内訳です。
| 解除日(2024年) | 解除された車種数 |
|---|---|
| 1月19日 | 5車種 |
| 1月30日 | 10車種 |
| 2月16日 | 6車種 |
| 3月11日 | 2車種 |
| 3月15日 | 3車種 |
| 3月29日 | 7車種 |
| 4月19日 | 5車種 |
この7回分を合計すると5+10+6+2+3+7+5=38車種となります。2023年12月20日の全車出荷停止から最後の解除まで約4か月あり、車種によっては数か月にわたって納車が止まった計算です。

この段階的な解除の表が、私は一番怖い。1車種ずつ、外から検証し直さないと出荷できないということだ。
自分たちの試験記録が信用に値しない状態になると、企業は自社の商品を売る資格を一時的に失う。これが不正の値札だ。
手口の構造|試験の条件そのものを操作していた
手口の本質は、試験結果を書き換えることではなく、試験の条件や車両の状態を本来と違うものにして受験させることでした。代表例が衝突試験と排ガス試験です。
衝突試験|エアバッグをタイマー加工で作動させる
衝突試験では、本来作動すべきタイミングとは異なるタイマー加工によってエアバッグを作動させていた事案があったとされています。つまり、車両に搭載された本来のセンサーが正しく衝突を検知して展開したのかを、その試験では確かめていなかったことになります。
試験の合格は、量産品が同じ条件で同じ性能を出すことを前提にしています。前提が外れた合格は、書類の上でしか成立していません。
排ガス試験|直前に触媒を新品へ差し替える
排ガス認証手続きでは、試験の直前に排ガス浄化装置の触媒を新品に差し替える手口があったとされています。触媒は使用に伴って性能が変化する部品であり、新品状態で測れば実際の車両より良い結果が出やすくなります。
ここでも操作されたのは数値ではなく、試験を受ける車両の状態そのものでした。データ改ざんという言葉から想像しがちな数字の書き換えより、発見が難しい構造だと言えるでしょう。
第三者委員会の調査によれば、こうした処理が1989年から2023年の発覚まで、車種を変えながら断続的に繰り返され、社内で問題として報告・是正されることなく継続していたとされています。
組織はなぜ止められなかったのか
第三者委員会は、真因を個人の資質ではなく経営と企業文化に求めています。日程を守ることが法令を守ることより優先される空気が形成されていたという整理です。
報告書では、真因として「不正対応の措置を講ずることなく短期開発を推進した経営の問題」と、「プロジェクト推進を最優先とし、法令・ルールを守れない企業文化が形成された」ことが挙げられました。現場が手を抜いたのではなく、抜かざるを得ない設計になっていたという指摘です。
完全子会社化と負荷の増大
背景の一つとされるのが、2016年8月にダイハツ工業がトヨタ自動車の完全子会社となって以降、担当する小型車のOEM供給が拡大したことです。開発現場の負荷が増大し、それが不正の温床になったと第三者委員会は指摘しています。
さらに、経営陣が現場の実態を十分に把握しないまま、2013年以降の開発プロジェクト増加に伴う現場負荷の高まりを見逃し、従業員が問題を報告できない環境が長期間放置されていたことも指摘されました。
完全子会社化はガバナンス強化を意味しない
親会社によるグループガバナンスが機能していたのかという論点は、複数の識者やメディアから提起されています。資本関係を100パーセントにすることと、統治が効くようになることは別問題だという見方です。
これは意見の領域になりますが、資本で完全に握った相手ほど、実態を報告してこなくなるという逆説はあり得ます。数字と日程だけが上がってきて、無理という言葉だけが上がってこない状態は、どのグループ会社にも起こり得るでしょう。

30年以上という長さは、悪意が30年続いたという意味ではない。一度嘘をつくと、次の車種でも同じ嘘をつかざるを得なくなるという連鎖の記録だ。
最初に壊れたのは試験データの正確性ではない。間に合いませんと言える回路のほうが、先に壊れていたに決まっている。
読者・自社への教訓とチェックポイント
消費者としての教訓は、ブランドではなく公的な処分・リコール情報で判断する習慣を持つことです。組織側の教訓は、報告ルートの有無を点検することに尽きます。
クルマの購入者・所有者が確認できること
この件では、キャストとピクシスジョイの計32万2740台(2015年8月〜2023年6月製造分)についてリコールが届け出られています。自分の車が対象かどうかは、国土交通省のリコール情報検索システムで車台番号から確認するのが確実です。
会社員・経営層が自社で点検できること
この事件を自社に引き寄せるなら、着目すべきは倫理研修の回数ではありません。以下の3点が、同じ構造が生まれていないかを測る簡易的な指標になります。
| 点検項目 | 危険なサイン |
|---|---|
| 日程の可変性 | 納期だけは絶対に動かないという前提で計画が組まれている |
| 報告ルート | 間に合わないという報告が評価を下げる形で運用されている |
| 親会社との関係 | 業務量や要求水準の引き上げに対し、体制の増強が伴っていない |
特に3つ目は、グループ会社や下請けに勤務する読者にとって現実味のある論点でしょう。要求だけが増えて人と時間が増えない状態が続けば、どこかで帳尻を合わせる誰かが生まれます。
そして帳尻合わせの代償は、担当者個人ではなく会社全体に返ってきます。この件では出荷停止という形で、事業そのものが数か月止まりました。
まとめ
- 第三者委員会が認定したのは25試験項目・174件、対象は64車種・3エンジンに及ぶ規模だった
- 手口は数値の書き換えではなく試験条件や車両状態の操作であり、書類だけでは見抜きにくい構造だった
- 真因は個人の悪意ではなく、日程が法令に優先する企業文化だと結論づけられた
次のアクションとして、まずは国土交通省の公表ページで、自分の乗っている車種が対象に含まれていないかを確認してみてください。会社員の方は、自社で無理ですという報告が実際に上がってきた最後の記憶がいつかを思い出すところから始めるとよいでしょう。
よくある質問
-
Q型式指定の取消とは何ですか
-
A
型式指定は、同じ型式の車をまとめて基準適合と認める制度で、その指定が取り消される行政処分です。この件では2024年1月26日に、グランマックス、タウンエース、ボンゴの各トラックタイプ計3車種の型式指定が取り消されました。
-
Q不正はいつから続いていたのですか
-
A
確認されている限りで最も古い不正は、1989年7月から2000年3月に販売されたセダンのアプローズで行われたと報じられています。2023年の発覚まで30年以上にわたることになりますが、この起点については報道ベースの情報であり、第三者委員会報告書原本での再確認が望ましい点にご留意ください。
-
Q対象車に乗っている場合、安全性に問題はありますか
-
A
国土交通省による基準適合性の検証は2024年6月25日にすべての対象車種・エンジンで完了しています。ただし型式指定が取り消された3車種については同日に基準不適合が確認され、リコールの実施が指導されました。所有車が対象かどうかは公的なリコール情報で確認してください。
-
Qこの不正で刑事責任は問われたのですか
-
A
この記事で扱っているのは、第三者委員会の調査結果と国土交通省による行政上の対応です。是正命令や型式指定取消といった行政処分については公表資料で確認できますが、課徴金・罰金等の金額を含む刑事上の帰結については、今回参照した公表資料の範囲では確認できていません。
出典・参考URL
- https://www.daihatsu.com/jp/news/2023/20231220-3.html 第三者委員会による調査結果および今後の対応について(ダイハツ工業株式会社、2023年12月20日)
- https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk8_000020.html 自動車:ダイハツ工業の型式指定申請における不正行為について|国土交通省
- https://www.daihatsu.com/jp/news/2024/20240625-1.html 国土交通省による基準適合性の検証結果公表について(ダイハツ工業株式会社、2024年6月25日)
- https://www.daihatsu.com/jp/news/2024/20240126-1.html 認証不正問題に対する国土交通省からの行政処分(型式指定取消)について(ダイハツ工業株式会社、2024年1月26日)
- https://www.daihatsu.com/jp/news/2024/20240116-1.html 国土交通省による是正命令について(ダイハツ工業株式会社、2024年1月16日)


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