- WILLはテレビ電話機のレンタルオーナー制度を開始し、購入した機器を預けるだけで毎月配当が入ると謳った預託商法の原型を作った
- 消費者庁から2回の行政処分を受けた後もVISIONに社名変更して営業を継続し、USBメモリに商品を切り替えて被害を拡大させた
- WILLからVISIONへの一連の詐欺は被害者約2万人・被害総額1800億円超に達し、改正預託法(販売預託の原則禁止)の成立を促した
テレビ電話を買って預けるだけで、毎月の配当が入ってくる。一見すると堅実なビジネスのように聞こえます。しかしWILL(ウィル)のレンタルオーナー制度は、実態のない自転車操業でした。
WILLは2018年に消費者庁から初の行政処分を受けましたが、VISIONに社名を変え、商品をテレビ電話からUSBメモリに切り替えて営業を再開。最終的に被害は43都道府県・約2万人・1800億円超にまで拡大しました。
この記事では、WILL事件の起点となったテレビ電話レンタルオーナー制度の手口と、社名変更による行政処分の回避、そして被害拡大の経緯を解説します。VISIONとしての事件の詳細は関連記事をご参照ください。預託商法という手口がどのように生まれ、進化し、法改正を促すに至ったのかを時系列で理解することで、類似の詐欺を見抜く力が身につくはずです。
テレビ電話のレンタルオーナー制度とは
WILLが展開していたビジネスモデルは、自社開発したとするウィルフォンと呼ばれるテレビ電話機器を消費者に販売し、その機器を預かって海外の利用者にレンタルするというものでした。
消費者は機器を購入してWILLに預けるだけで、海外レンタルの収益から毎月一定額の配当を受け取れるとされていました。消費者自身がレンタル先を探す必要はなく、面倒な運用手続きはすべてWILLに一任するという、手軽さを売りにした仕組みです。
しかし実態は異なりました。消費者庁の調査によると、WILLの売上のほぼすべてが機器の販売収入であり、海外レンタル事業の実態はほぼ存在しなかったことが確認されています。配当の原資は新しい会員の購入代金だったのです。海外の利用者が月額35ドルでテレビ電話機を借りるというストーリーは巧みに作られていましたが、その利用者が実在するかどうかを確認する手段は消費者側にはありませんでした。海外事業という情報の非対称性が、一般の消費者による事実確認や検証作業を極めて困難にしていたのです。
マルチ商法との組み合わせ
WILLの被害が急速に拡大した背景には、連鎖販売取引(マルチ商法)の仕組みが組み込まれていた点があります。既存の会員が新しい会員を紹介すると報酬を得られる仕組みがあり、会員自身が勧誘の担い手となって全国に広がっていきました。
セミナーはホテルの会議室などで開催され、実質的トップの大倉満と呼ばれる人物が海外レンタル事業の成功を語り、参加者の信頼を獲得していたとされます。セミナーでは具体的な海外利用者数やレンタル料の数字が提示されましたが、これらが虚偽だったことが後の消費者庁の調査で判明しています。
このマルチ商法の構造は、2018年12月の消費者庁による第1回行政処分の主な理由となりました。
被害者はどのような人たちだったのか
WILLの被害者には高齢者が多く含まれていたとされますが、若年層の被害も少なくありませんでした。マルチ商法の構造上、友人や家族を通じた勧誘が行われるため、年齢層や社会的地位に関係なく被害が広がる特徴があります。
特に問題だったのは、紹介報酬の仕組みが被害者を加害者に変えてしまう点です。会員が新しい会員を紹介するとボーナスが支払われるため、善意で家族や友人を勧誘した結果、その人たちも被害に遭うという連鎖が生まれました。被害者が同時に加害者でもあるという複雑な構造が、被害の訴えを難しくし、事件の表面化を遅らせた側面もあります。被害者であると同時に紹介者でもある立場に置かれた会員は、自分が被害者だと認識しても、紹介した相手への罪悪感から声を上げられないという深刻な心理的な葛藤を抱えることになります。この構造こそが、マルチ商法型の預託商法が社会問題化するまでに時間がかかる根本的な原因です。WILLが連鎖販売取引(マルチ商法)の勧誘時に重要事項を告げなかったことが特定商取引法違反と認定されたのです。具体的には、WILLは勧誘時にテレビ電話の海外レンタル事業が実際には存在しないこと、配当金の原資が新規会員の購入代金であることを告げずに会員を集めていたことが問題とされました。
なぜ行政処分を回避できたのか
WILL→VISIONの最大の問題は、行政処分を受けるたびに社名を変更し、実質的に同じ事業を継続した点にあります。
2018年と2019年の行政処分でWILLとその関連会社に業務停止命令が出された後、WILLは事業をVISIONに承継しました。VISIONはWILLとは法的に別会社であるため、WILLに対する業務停止命令がそのままVISIONに適用されるわけではありませんでした。
この法的な抜け穴を利用して、VISIONは事実上WILLと同じ事業を同じメンバーで継続しました。商品名をテレビ電話からUSBメモリに変更し、運営会社の名前を変えただけで、ビジネスの根幹にある預託商法という本質的な詐欺構造は全く同一のままでした。
消費者庁もこの問題を認識しており、2021年のVISIONへの3回目の処分では、WILLの承継会社であることを明記した上で処分を行っています。また、実質的トップの大倉満と幹部の赤﨑達臣に対しても個人としての業務禁止命令を出し、別の法人を使って営業を再開することを防止する措置を取りました。
なぜ被害は1800億円まで膨らんだのか
WILLからVISIONへの一連の預託商法で被害総額が1800億円を超えた最大の理由は、行政処分の執行力が不十分だったことにあります。
消費者庁は2018年と2019年にWILLに対して行政処分を出しましたが、WILLが事業をVISIONに承継して営業を再開することを即座に阻止する法的手段を持っていませんでした。業務停止命令は特定の法人に対するものであり、新しい法人が同じ事業を始めることを直接的に禁止するものではなかったためです。
この問題は、2021年の改正預託法で販売預託商法そのものを原則禁止とすることで対処されましたが、WILL→VISIONの期間に被害が急拡大していた事実は、法改正が間に合わなかった悔いとして残っています。
また、WILLの事業規模の大きさも被害拡大の一因です。全国にセミナー会場を設け、組織的に会員を勧誘する体制が整っていたため、短期間で膨大な数の被害者を生み出しました。セミナーではホテルの大会議室が使われ、数百人規模の参加者を前にプレゼンテーションが行われていたとされます。こうした大規模なイベントの開催自体が、事業の信頼性を演出する効果を持っていたのです。
さらに、WILLは多数の関連会社を使い分けていたことも、被害拡大の要因です。消費者庁の調査によると、WILL、VISION、レセプション、ワールドイノベーションラブオール、ピクセル&プレス、LINK、ホームセキュリティ、テレメディカル、AR、トータル72、ピーアールピーなど多数の法人名が使い分けられていたことが確認されています。これだけの法人が絡む複雑な組織構造は、被害者が事業の全体像を把握することを困難にし、また捜査機関による実態解明も遅らせる結果となりました。消費者庁や警察が全容を解明するためには、これら全ての法人の関係性と資金の流れを一つずつ解きほぐす必要があり、膨大な時間と労力が費やされたのです。

WILL→VISIONの事例は、日本の行政処分制度の限界を露呈しました。業務停止命令は会社に対して出されるため、別の法人を作れば回避できてしまう。この問題を受けて、2021年の改正預託法では個人に対する業務禁止命令が強化され、販売預託商法そのものが原則禁止となりました。1800億円超の被害は、法改正という形で未来の消費者を守る土台になっています。
現代に通じる教訓
WILL事件から学ぶべき最大の教訓は、商品を預けるだけで配当が入るという仕組みは原則として疑うべきだということです。
預託商法は安愚楽牧場(和牛)、ジャパンライフ(磁気治療器)、ケフィア事業振興会(干し柿)、そしてWILL/VISION(テレビ電話/USBメモリ)と、商品の種類を変えて繰り返されてきました。しかし構造は全て同じで、商品の運用実態がなく、新規出資者の購入代金で既存出資者への配当を賄う自転車操業です。
2021年の改正預託法により販売預託商法は原則禁止となりましたが、法改正後も類似の手口が完全になくなるとは限りません。名称や商品を変えて規制の網をかいくぐる事業者は今後も現れるでしょう。消費者としては、以下の3点を常に確認する姿勢が重要です。WILLの被害者の多くは、最初の配当を実際に受け取っていたため、事業が正常に運営されていると信じてしまいました。しかし、最初の配当が支払われること自体がポンジスキームの常套手段であり、信頼を構築して追加投資を引き出すための仕掛けに過ぎないのです。
- 金融庁または消費者庁のウェブサイトで業者の登録・処分歴を確認する
- 業者名だけでなく代表者個人の名前でも検索し、過去のトラブルを調べる
- 商品を預けるだけで配当が入るという仕組みは、2021年の改正預託法で原則として禁止されている。このような勧誘を受けた場合は、消費者ホットライン(188)に通報することが自分自身の被害防止だけでなく社会全体の被害抑止につながる。通報は匿名でも可能であり、費用もかからない
まとめ
- WILLはテレビ電話のレンタルオーナー制度で預託商法を開始し、マルチ商法の仕組みで全国に被害を拡大させた
- 消費者庁の行政処分を受けるたびに社名をVISIONに変更し営業を継続。最終的に被害は2万人・1800億円超に達した
- この事件は改正預託法(販売預託の原則禁止)の成立を促した重要事例であり、商品を預けるだけで配当が入るという仕組みは現在は違法である
よくある質問
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Q改正預託法でどう変わりましたか?
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A
2021年6月に成立した改正預託法により、販売預託商法は原則禁止となりました。消費者庁の確認を受けずに無許可で販売預託を行った個人には、5年以下の懲役または500万円以下の罰金が科されます。また、勧誘時の不実告知に対する罰則も強化されています。
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QWILLの被害者はどうすればいいですか?
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A
消費者ホットライン(188)に相談し、弁護士への相談を検討してください。集団訴訟も進行中であり、被害者の会に参加することで情報共有や費用の分担が可能です。特定商取引法に基づく不実告知の取り消し権も活用できる場合があります。
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Q預託商法と投資信託の違いは何ですか?
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A
投資信託は金融庁に登録された運用会社が、法令に基づく情報開示と監査を受けながら運用する合法的な金融商品です。元本保証はありませんが、信託銀行による資産の分別管理や、基準価額の毎日公表など、投資家保護の仕組みが法的に整備されています。一方、預託商法は多くの場合、無登録で運営され、運用実態の開示義務もなく、顧客資産の保全措置もありません。
【出典】参考URL
- 消費者庁:VISIONおよびレセプションへの行政処分(WILLからの承継関係の認定を含む)
- 日本経済新聞:VISION預託商法への業務停止命令、WILLからの処分歴3回
- 先物取引被害の相談窓口:VISION関係者の逮捕・判決、関連法人名の一覧
- 中国新聞:広島県警の家宅捜索と改正預託法の解説


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