JPモルガン“ロンドンの鯨”事件とは?62億ドルを飲み込んだデリバティブ取引

詐欺事件
JPモルガン“ロンドンの鯨”事件とは?62億ドルを飲み込んだデリバティブ取引を3行で要約
  • JPモルガンのロンドンオフィスに勤務するトレーダー、ブルーノ・イクシルがCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)市場で市場を歪めるほどの巨大ポジションを積み上げた
  • 当初はリスクヘッジ目的とされたが、取引が肥大化し実質的な投機に。累計損失は62億ドル(約6950億円)に達した
  • 事件はボルカールール(銀行の自己勘定取引制限)の最終規則策定を後押し。ヘッジと投機の境界が曖昧なデリバティブ規制の難しさを浮き彫りにした

2012年4月、JPモルガン・チェースのロンドンオフィスに巨額のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の売り注文を出し続けている人物がいるという報道が金融市場を駆け巡りました。その取引規模はCDS市場全体を歪めるほどで、業界関係者から“ロンドンの鯨”と呼ばれていました。

その正体はJPモルガンのCIO(最高投資責任者室)に所属するフランス人トレーダー、ブルーノ・イクシル。当初20億ドルと発表された損失は拡大を続け、最終的に62億ドル(約6950億円)に達しました。リーマンショック後に強化されたはずのリスク管理が、なぜ再び機能不全に陥ったのかを解説します。

“ロンドンの鯨”とは

ブルーノ・イクシルはJPモルガンの保有資産(約3600億ドル)のリスク管理を担うCIO部門のクレジットデスク責任者でした。

CDS市場で毎年数億ドルの利益を上げる敏腕トレーダーで、その攻撃的な取引手法から業界では“原始人(Caveman)”とも呼ばれていました。一人が動くだけで株価指数を動かすほどの影響力を持ち、ハリー・ポッターの闇の帝王になぞらえて“ヴォルデモート”という異名もありました。

ヘッジから投機へ:損失拡大の構造

ロンドンの鯨事件の時系列
  • 2012年4月
    巨大なCDSポジションが報道される
    JPモルガンのCIO部門が大量のCDSの売り注文を出しており、市場を歪めているとの報道。イクシルが“ロンドンの鯨”と呼ばれていることが判明。
  • 2012年5月
    損失20億ドルと発表
    第1四半期決算でCDS取引により20億ドルの評価損が発生したと発表。CEOのジェイミー・ダイモンは“ティーポットの中の嵐”と軽視する発言をしていたが、撤回に追い込まれた。
  • 2012年7月
    損失44億ドルに拡大、イクシル退職
    第2四半期決算で損失が44億ドルに拡大したと発表。イクシルがJPモルガンを退職。2年分の報酬の返上が求められた。
  • 2012年10月
    累計損失62億ドルに確定
    第3四半期決算で追加損失が発生し、累計損失は62億ドルに達した。
  • 2013年1月
    FRBとOCCが業務改善命令
    FRBとOCC(通貨監督庁)がJPモルガンに業務改善命令を発出。上院常設調査小委員会が301ページの調査報告書を公表し、損失の隠蔽や取引制限の回避、当局への報告回避が指摘された。
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CEOのジェイミー・ダイモンは当初“ティーポットの中の嵐”と軽視していましたが、わずか数週間で“ひどく、恥ずかしく、愚かで、自分たちに腹が立つ”と態度を一変させました。損失が3倍に膨れ上がる間、経営トップの状況認識がいかに甘かったかを示しています。

現代に通じる教訓

ロンドンの鯨事件の核心は、ヘッジと投機の境界が曖昧なデリバティブ取引のリスクです。

JPモルガンは一貫してCIO部門の取引はリスクヘッジ目的であると主張しましたが、上院の調査報告書はこれを否定しています。スワップの上にスワップを重ねる複雑な取引構造により、1つのスワップの利益で別のスワップの損失を穴埋めできないリスクが生まれていました。さらにポジションが肥大化した結果、ヘッジファンドに標的にされて踏み上げられるという皮肉な結末を迎えています。この事件はボルカールール(銀行の自己勘定取引制限)の最終規則策定を後押しし、デリバティブ取引の透明性向上に寄与しました。

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イクシル自身は2016年に沈黙を破り、取引は全てCIO部門の上級管理職が承認・指示・監督していたものであり、自分は執行者に過ぎなかったと主張しています。米当局はイクシルに対して訴追しない決定を下し、代わりに元上司らが起訴されました。組織の問題を個人に帰するのはもう通用しない、という教訓です。

まとめ

  • JPモルガンのCIO部門でヘッジ目的のCDS取引が肥大化し、市場を歪めるほどの巨大ポジションに。累計損失は62億ドル
  • 損失の隠蔽、取引制限の回避、当局への報告回避が上院調査で指摘。CEOも状況認識が甘かったことが露呈した
  • 事件はボルカールールの最終規則策定を後押し。デリバティブ取引の透明性向上とリスク管理強化の契機となった

よくある質問

Q
ボルカールールとは何ですか?
A

ボルカールールとは、2010年のドッド=フランク法に基づき導入された、銀行の自己勘定取引を制限する規制です。預金を受け入れる銀行が投機的な取引を行うことを禁止する一方、リスクヘッジ取引は認められています。ロンドンの鯨事件は、このヘッジと投機の線引きの難しさを浮き彫りにし、2013年の最終規則策定を後押ししました。

Q
イクシルは逮捕されましたか?
A

イクシルは逮捕・起訴されていません。米当局と協力して元上司らの取引について証言することで合意し、訴追しない決定がなされました。代わりに、元上司2名が詐欺罪等で起訴されています。イクシルは2016年に公開書簡で、取引は上級管理職の承認と指示のもとで行ったものであり、自分に責任はないと主張しています。

Q
CDSとは何ですか?
A

CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)とは、企業や国が債務不履行に陥るリスクを取引するデリバティブ(金融派生商品)です。保険のような仕組みで、CDSの買い手は定期的にプレミアムを支払い、対象企業が債務不履行になった場合に損失の補填を受けます。市場を通さない相対取引で行われ、参加者が限られているため、大口の売買が価格を大きく歪める可能性があります。

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