- J&Jはベビーパウダーの原料タルクに発がん性物質アスベストが含まれていることを1970年代から把握していたが、公には安全だと主張し販売を継続した
- 内部文書で“金の卵”“聖なる牛”と呼ばれた製品は7万3000件以上の訴訟に発展。卵巣がんや中皮腫の発症との関連が指摘された
- 2023年にJ&Jは89億ドル(約1兆1700億円)の和解案を提示。2024年には110億ドルに増額され、25年かけて支払う計画を発表した
世界中の家庭で何世代にもわたって信頼されてきたベビーパウダー。その原料であるタルク(滑石)に、発がん性物質として知られるアスベストが含まれていたことを、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)は50年以上前から知っていました。
1970年代の社内メモには、科学者がより安全なコーンスターチへの切り替えを提案したことが記録されています。しかしJ&Jは利益を優先してタルク製品の販売を継続。その結果、7万3000件を超える訴訟と、1兆円を超える和解金という代償を払うことになりました。
50年の隠蔽
J&Jのベビーパウダーは、社内で“金の卵”“会社の信頼マーク”“聖なる牛”と呼ばれる看板商品でした。
しかし1960年代にまでさかのぼる社内メモは、タルク製品がアスベストを含有し、その鉱物が危険でありうることを示していました。1970年代前半の社内メモには、科学者がアスベスト汚染の懸念を指摘し、コーンスターチへの切り替えを提案したことが記録されています。しかしJ&Jはタルク製品の販売を継続しました。
訴訟の拡大と巨額賠償
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1970年代社内でアスベスト汚染の懸念が指摘社内科学者がタルク中のアスベスト汚染を確認し、コーンスターチへの切り替えを提案。しかし経営陣は利益を優先し、タルク製品の販売を継続した。
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2016年〜2018年賠償訴訟が相次ぐミズーリ州やカリフォルニア州で陪審がJ&Jの責任を認定。2018年7月にはミズーリ州で女性22人に46.9億ドルの賠償が命じられた(控訴審で21億ドルに減額)。
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2019年10月FDAがアスベストを検出、一部リコールFDAの調査者がオンライン業者から購入したベビーパウダーのボトルからアスベストを検出。J&Jは3万3000ボトルをリコールした。
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2020年5月北米でのタルク製ベビーパウダー販売中止J&Jが北米でのタルクベースのベビーパウダーの販売を中止。世界の他の地域では販売を継続した。
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2023年4月89億ドルの和解案を提示J&Jが全訴訟の和解に向け89億ドル(約1兆1700億円)の支払いに同意。25年かけて支払う計画を発表。
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2024年5月和解案を110億ドルに増額J&Jが和解案を110億ドル(約1兆7400億円)に増額。原告の十分な同意が得られるかが焦点となっている。

J&Jのタルク訴訟は7万3000件以上に及びます。個別訴訟では9億6600万ドル(約1000億円超)の賠償が命じられた事例もあり、J&Jは“アスベストを含んだ製品を承知の上で消費者に販売した”と認定されています。50年にわたる隠蔽の代償は、企業としての信頼そのものの崩壊でした。
現代に通じる教訓
J&J事件の教訓は、消費者の信頼を裏切る隠蔽は最も高くつくという点です。
J&Jはベビーパウダー以外にも、欠陥のある股関節インプラント、オピオイドの不正マーケティング、抗精神病薬の乱用、経膣メッシュによる傷害など、数十億ドル規模の訴訟を繰り返しています。2019年には議会調査で、欠陥のあるモトリンカプセルをリコールを回避するために密かに買い戻していたことも発覚しました。利益のためにリスク情報を隠す行為は、最終的に企業の存続そのものを脅かします。
まとめ
- J&Jは1970年代からタルク中のアスベスト汚染を把握しながら、50年以上にわたり販売を継続した
- 7万3000件超の訴訟に発展し、個別訴訟で最大9億6600万ドルの賠償が命じられた
- 和解金は最大110億ドル(約1兆7400億円)。消費者の信頼を裏切る隠蔽が、企業にとって最も高くつく行為であることを示した
よくある質問
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Q日本のベビーパウダーにもアスベストのリスクはありますか?
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A
日本では厚生労働省が2006年に通達を出し、石綿をその重量の0.1%を超えて含有する粉状のタルクの使用を禁止しています。実態把握調査でもアスベストを含むタルク製造は確認されていません。ただし過去にはタルクを使用した作業環境で中皮腫を発症した労災認定事例があり、リスクはゼロではありません。
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QJ&Jのベビーパウダーは現在も販売されていますか?
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A
2020年に北米でのタルクベースのベビーパウダーの販売を中止しましたが、コーンスターチベースの製品は販売を継続しています。一部の地域ではタルク製品も販売されていましたが、訴訟の影響で段階的に縮小されています。
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Qオピオイド訴訟とは何ですか?
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A
J&Jはオピオイド系鎮痛剤の原料となるケシの栽培やオピオイド製品の販売に関わっており、リスクを軽視して利益を過大評価したとして訴えられました。2019年にオクラホマ州の裁判官はJ&Jに5.72億ドルの賠償を命じています。米国全体のオピオイド危機では数十万人の死者が出ており、製薬会社全体で数百億ドル規模の和解金が支払われています。
【出典】参考URL
- Sustainable Japan:タルク訴訟の全体像、全米6610件の訴訟、賠償額の推移
- AFP:ミズーリ州控訴裁21億ドル賠償命令、アスベスト含有の認定
- Bloomberg:89億ドルの和解案、25年かけた支払い計画
- 全国労働安全衛生センター:1960年代の社内メモ、7万3000件超の訴訟


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