- 英大手銀行HSBCのメキシコ法人が、麻薬カルテルの資金洗浄に利用され、年間30〜40億ドル規模の米ドルがメキシコから米国に還流していた
- イランなど制裁対象国との取引も隠蔽。疑わしい取引のモニタリングが不十分で、不正取引が見過ごされていた
- 2012年に米当局と和解し、過去最大の罰金19億ドル(約1580億円)を支払い。起訴猶予合意(DPA)に基づき5年間の監視を受けた
米国からメキシコへ、毎年220億ドル(約1.8兆円)の麻薬資金が流出していると米司法当局は推計しています。その資金の一部が、世界最大級の銀行HSBCを通じて米国に還流していました。
2012年、米上院の常設調査小委員会は、HSBCが意図的または不作為によりマネーロンダリングを助長していたことを指摘。HSBCは過去最大となる罰金19億ドルを支払うことで米司法省と和解しました。
事件の背景:麻薬カルテルとHSBCメキシコ
HSBCのメキシコ法人(HBMX)は、麻薬カルテルの資金洗浄の入り口として利用されていました。
麻薬カルテルは中南米から密輸入したドラッグを米国内で販売し、大量の米ドル紙幣を入手します。しかし、米国内では多額の現金を金融機関に入金すると疑わしい取引として通報されるため、ドル紙幣をいったんメキシコに運び込みます。そこでHBMXを通じて米国の銀行口座に送金することで、資金を“洗浄”していたのです。
2007年には30億ドル、2008年には40億ドルという巨額の米ドルが、HBMXから米国のHSBCに送金されていました。米司法当局は、この規模の送金は麻薬ビジネスの利益が還流しているのでなければ理解不能だと指摘しています。

HSBCは麻薬カルテルの資金洗浄だけでなく、イランなど制裁対象国との取引も隠蔽していました。1998年にはすでにHBMXの口座開設担当者が麻薬カルテルへの不正送金で罰金を科されており、問題は10年以上前から認識されていたのです。
発覚と罰金19億ドル
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2006年〜2009年年間数十億ドルの資金が洗浄HBMXから米国HSBCへの電信送金670億ドル、現金94億ドルの監視に失敗。シナロア・カルテルやノルテ・デル・バジェ・カルテルの資金が含まれていた。
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2012年7月米上院委員会が報告書を公表米上院常設調査小委員会が、HSBCが麻薬カルテルの資金洗浄やテロほう助が疑われる金融機関の送金を阻止しなかったとする報告書を公表。
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2012年12月罰金19億ドルで和解HSBCが米司法省などに過去最大の罰金19億ドル(約1580億円)を支払うことで和解。起訴猶予合意(DPA)に基づき、条件を満たす限り訴追しない方針。
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2017年12月起訴猶予合意が満了、訴追取り下げ5年間の監視期間中にコンプライアンス体制を改善したと認定され、米司法省が訴追の取り下げを申し立て。
現代に通じる教訓
HSBC事件の教訓は、グローバル金融機関の規模が、そのままマネーロンダリングのリスクになるという点です。
HSBCは世界60カ国以上で事業を展開しており、その規模と複雑さのために各拠点の取引監視が不十分でした。米司法当局は、HSBCを起訴すれば英国と世界経済に災害をもたらす可能性があるとして起訴を見送りました。これは“Too Big to Jail(大きすぎて投獄できない)”という批判を生みました。

19億ドルの罰金は過去最大ですが、HSBCの年間利益に対すれば数週間分に過ぎません。麻薬カルテルの資金を何年も洗浄し続けても、経営陣の誰一人投獄されない。この“大きすぎて罰せない”問題は、現在も国際金融規制の最大の課題の一つです。
まとめ
- HSBCメキシコが麻薬カルテルの資金洗浄に利用され、年間数十億ドル規模の資金が洗浄されていた
- 過去最大の罰金19億ドルを支払い和解。しかし経営陣の誰も投獄されず“Too Big to Jail”と批判された
- 事件後、HSBCはAIを活用したモニタリングシステムの導入など大規模なコンプライアンス改革を実施した
よくある質問
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QHSBCの経営陣は逆捕されましたか?
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A
いいえ、HSBCの経営陣や従業員に対する刑事告発は行われませんでした。米司法省は、HSBCを起訴すれば英国と世界経済に災害をもたらす可能性があるとして、起訴猶予合意(DPA)を選択しました。これは“Too Big to Jail(大きすぎて投獄できない)”という批判を浴びています。
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Qマネーロンダリングとは何ですか?
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A
マネーロンダリング(資金洗浄)とは、犯罪で得た資金の出所を隠し、合法的な資金に見せかける行為です。HSBCのケースでは、麻薬取引で得た米ドルをメキシコの銀行を経由して米国に送金することで、正当な商取引の資金と区別がつかないようにしていました。
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QHSBCは現在どのような対策をとっていますか?
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A
事件後、HSBCは独立したコンプライアンス部門の設置、AML専門家の大幅増員、AIを活用した取引モニタリングシステムの導入、新規顧客のリスクプロファイリングの厳格化など、大規模なコンプライアンス改革を実施しています。2017年に米司法省が改善を認定し、訴追の取り下げが行われました。


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