- 23年間にわたり医師、大学教授、刑務所長、僧侶など8つ以上の身分を騙り、いずれの職務も有能にこなした天才詐欺師だ
- 朝鮮戦争ではカナダ軍の軍医になりすまし、医学書を片手に実際に外科手術を執刀。患者を次々と回復させ名医として称賛された
- IQ200超ともいわれる知能を持ちながら正規の資格取得に耐えられず、被害届は一件も提出されなかったという異例の詐欺師だ
ある時は海軍少佐、ある時は外科医、ある時は大学教授、ある時は刑務所長。一人の男が23年間にわたり、次々と別人になりすまして社会に溶け込み、しかもいずれの職務も有能にこなしました。最も驚くべきは、この男に対する被害届が一件も提出されなかったことです。
フェルディナンド・ウォルド・デマラ・ジュニアは、アメリカ犯罪史上最も奇妙な詐欺師であり、偉大なるなりすまし(The Great Impostor)の異名で知られています。1961年には同名の映画が制作され、トニー・カーティスがデマラを演じました。
この記事では、デマラのなりすまし人生の全貌と、なぜ彼は被害者から恨まれるどころか感謝されたのかを解説します。
デマラの生い立ちとなりすましの始まり
フェルディナンド・デマラとは、高い地位に就いて皆から尊敬されたいという欲求を、経歴詐称で実現し続けた人物です。
1921年、アメリカで生まれました。少年時代に父が事業に失敗して実家が破産し、家庭環境は一変しています。抜群の頭脳を持ちながらも既存の教育に辟易し、高校を中退。正規のルートで資格や肩書きを得ることに我慢ができず、身分や書類を偽造して最短距離で出世しようとする人生が始まりました。
16歳の時に年齢を詐称してトラピスト修道会の修道士に加わりましたが、規則を守れず追い出されています。1941年に19歳で陸軍に入隊しましたが、やはり肌に合わず友人の身分証明書を盗んで脱走し、海軍に入隊。海軍では医療将校になろうと医学部卒業の書類を偽造しましたが、偽造がバレたため自分を死んだことにして逃亡しました。
次々と変わる身分
デマラがなりすました職業は、医師、大学教授、刑務所長、僧侶、弁護士、小学校教師など多岐にわたります。
1942年、デマラは元海軍士官で心理学者のロバート・リントン・フレンチ博士になりすまし、1945年まで大学の講師を務めました。しかし本当の身分がバレて脱走の罪で逮捕されています。6年の刑期のうち18ヶ月で出所すると、今度はセシル・ハマンという新しい身分を名乗り、ノースイースタン大学に入学。法学の博士号を実際に取得した上で、キリスト教系大学の講師となりました。
軍医になりすまし手術を執刀
デマラの最も有名ななりすましは、朝鮮戦争中にカナダ軍の軍医として実際に外科手術を行ったエピソードです。
カナダ軍で軍医が不足していると聞いたデマラは、ジョセフ・サイドという実在の医師になりすまして軍医に志願しました。医学書を片手に手術を行い、患者を次々と回復させたのです。しかし素人ゆえの限界もあり、重症患者の手術では麻酔の量を間違え、患者がなかなか目を覚まさないという失敗もありました。
名医としてあまりに有名になったことが仇となり、記者たちに身元を調べられて全てが発覚しました。しかし驚くべきことに、デマラに対する被害届は一件も提出されませんでした。むしろ彼に命を救われた患者や、有能な教師として慕っていた学生たちから感謝されていたのです。

デマラの事件は、資格と能力の関係について深い問いを投げかけます。無資格の人間が医学書だけで手術を成功させたという事実は、資格制度の盲点を突いています。
しかし当然ながら、これは資格が不要であることを意味しません。デマラは麻酔の量を間違えるという致命的なミスも犯しており、運が悪ければ患者は命を落としていました。デマラの成功は、資格制度が守る安全の重要性を逆説的に証明しているのです。
なぜデマラは成功し続けたのか
デマラが23年間にわたりなりすましを成功させ続けた理由は、驚異的な記憶力と洞察力、そして権力の空白に入り込む技術にあります。
デマラのIQは200以上あったとも言われており、医学書を短期間で暗記して手術に臨むような離れ業も可能にしました。さらに彼は、人間社会の集団心理と社会的慣習を鋭く見抜く能力を持っていました。
たとえば、既存のグループに加わるのではなく、自分で新しい委員会を立ち上げてそのトップになるという手法を好みました。権威ある人物が既にいる場所ではなく、権威の空白がある場所を見つけて入り込むのです。また、信頼される書類の作り方を研究し、組織や集団の習慣を利用して自然に溶け込む方法を心得ていました。
デマラの最期
デマラは晩年、本名で教会の聖職者となり、カウンセラーとして生涯を閉じました。
なりすまし人生の末期にはテレビ番組や映画にも出演しましたが、最終的にはデマラという自分自身の名前で教会に入り、本物の牧師となりました。カリフォルニアの病院でカウンセラーとして働き、1982年に60歳で亡くなっています。
23年間にわたり他人になりすまし続けた男が、最後は自分自身として生きることを選んだという結末は、偽りのアイデンティティで得られる承認には限界があることを物語っています。
まとめ
- デマラは23年間で医師、教授、刑務所長など8つ以上の身分を騙り、いずれも有能に職務をこなした。被害届は一件もなかった
- IQ200超の知能と権力の空白に入り込む技術がなりすましを可能にしたが、無資格の手術は患者の命を危険にさらす行為でもあった
- 最終的に本名で聖職者となった結末は、偽りのアイデンティティの限界を示している。資格制度は安全を守るための仕組みであることを忘れてはならない
よくある質問
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Qデマラが手術した患者は本当に回復しましたか?
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A
複数の患者が回復したと報告されています。デマラは医学書を徹底的に読み込んだ上で手術に臨んでおり、基本的な手術については成功させていました。ただし、麻酔量の誤りなど危険なミスも発生しており、全ての手術が安全に行われたわけではありません。戦場の軍医不足という特殊な状況が彼のなりすましを助けた面もあります。
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Qなぜ被害届が出されなかったのですか?
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A
デマラがなりすました先々で実際に有能に職務をこなしていたため、被害を受けたと感じる人がいなかったことが最大の理由です。患者は治療を受けて回復し、学生は質の高い授業を受け、組織は有能な人材を得ていました。経歴は嘘でしたが、提供した価値は本物だったという皮肉な状況が、被害届ゼロという結果を生みました。
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Qデマラの映画はありますか?
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A
1961年にトニー・カーティス主演で映画化されています。原題は原作と同じ邦題で知られており、デマラの波乱に満ちたなりすまし人生を描いた作品です。デマラ本人もテレビ番組に出演するなど、なりすまし発覚後はメディアでの露出も多くありました。
【出典】参考URL
- note(尾登雄平):詐欺師フェルディナンド・デマラから学ぶキャリアアップの仕方
- Wonderland:フェルディナンド・ウォルド・デマラJr


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