- 英国陸軍少佐チャールズ・イングラムが、2001年に英国版クイズ$ミリオネアで100万ポンド(約1億8000万円)を獲得。しかし不正が疑われた
- 共犯者のテクウェン・ウィトックが観客席から咳で正解の合図を送っていたことが録画映像から発覚し、賞金は支払われなかった
- 2003年の裁判で3人全員が詐欺罪で有罪。執行猶予付きの判決を受けたが、イングラム夫妻は現在も無罪を主張し続けている
ファイナルアンサー?――この決め台詞で世界中を熱狂させたクイズ番組Who Wants to Be a Millionaire?(日本ではクイズ$ミリオネアとして放送)。2001年、この番組のイギリス版で前代未聞の不正事件が発生しました。
陸軍少佐が咳ひとつで100万ポンドを手にしたとされるこの事件は、テレビ史上最も有名なスキャンダルのひとつとなっています。この記事では、事件の全貌と裁判の経過、そして今もなお続く真偽の議論を詳しく解説します。
イングラム少佐と番組の背景
チャールズ・イングラムとは、英国陸軍の少佐であり、2001年にクイズ$ミリオネアの不正で有罪となった人物です。
Who Wants to Be a Millionaire?は1998年に英国ITVで放送を開始し、最高賞金100万ポンド(当時のレートで約1億8000万円)という破格の金額で社会現象を巻き起こしました。その後100カ国以上でフォーマットが輸入され、日本でもみのもんた司会のクイズ$ミリオネアとして絶大な人気を誇りました。
イングラムの妻ダイアナとその兄エイドリアンは、番組の大ファンでした。一家は自宅に早押しマシンを自作して徹底的にクイズの練習を重ねるほどの熱心さで、ダイアナは先に番組に出演して3万2000ポンドを獲得しています。そして2001年、ついにチャールズ・イングラム本人がホットシート(回答者の椅子)に座ることになったのです。
咳による不正の手口
不正の方法は驚くほど単純なものでした。イングラムが選択肢を声に出して読み上げ、正解の選択肢が読まれた時に共犯者が咳をするというものです。
共犯者は、同じく番組の出場経験があるテクウェン・ウィトックという大学講師でした。彼は観客席ではなく、次の挑戦者として待機するスタジオ内の席に座っていたのです。イングラムが各問題で選択肢を1つずつゆっくり読み上げると、ウィトックが正解の選択肢のタイミングで咳をする。その合図を受けて、イングラムは回答を選択していました。
番組の収録は2日にわたって行われています。初日はイングラムのパフォーマンスは平凡で、序盤の簡単な問題にも考え込む場面が目立ちました。しかし翌日に収録が再開されると突然正解を連発し、最終的に100万ポンドの最高額に到達しています。
番組制作陣は収録後に映像を確認し、イングラムが回答を変更する直前に不自然な咳が繰り返されていることに気づきました。さらに、イングラムの妻ダイアナと共犯者ウィトックの両方が、以前のイングラム家の出場時にも会場にいたことが確認されています。制作側は賞金の支払いを保留し、警察に通報しました。

この事件が面白いのは、詐欺の手口がハイテクでもなんでもなく、ただの咳だったという点です。しかしその単純さゆえに、本当に不正だったのか偶然だったのかの判断が極めて難しい。20年以上経った今でも議論が続いているのは、そのグレーさゆえでしょう。
裁判と判決
2003年、4週間にわたる裁判の末に3人全員が詐欺罪で有罪と認定されました。
罪状は欺罔による有価証券の取得(procuring a valuable security by deception)です。チャールズとダイアナのイングラム夫妻にはそれぞれ18ヶ月の執行猶予付き判決と1万5000ポンドの罰金、1万ポンドの訴訟費用が命じられました。ウィトックには12ヶ月の執行猶予付き判決と1万ポンドの罰金、7500ポンドの訴訟費用が命じられています。
100万ポンドの賞金は一度も支払われませんでした。実刑こそ免れましたが、チャールズは軍のキャリアを事実上失い、世間からは咳少佐(Coughing Major)と揶揄されるようになります。夫妻は行く先々で人々に咳をして嫌がらせを受け、飼い猫がエアガンで撃たれたとも報じられています。
終わらない無罪の主張
イングラム夫妻は有罪判決後も一貫して無罪を主張し続けています。
弁護側は、裁判で提出された咳の音声テープが陪審員に渡される前に改ざんされた可能性を指摘しました。またウィトックには制御不能な咳を引き起こす持病があったとも主張しています。多くの観客がいるスタジオの中で、共犯者の咳だけを正確に聞き分けて正解することが本当に可能なのかという疑問は、今日に至るまで残っています。
2020年にはこの事件を題材にしたドラマQUIZがITVで放送されました。マシュー・マクファディンがイングラム役を演じ、マイケル・シーンが司会のクリス・タラント役を務めています。ドラマは事件の両面を描いており、視聴者に判断を委ねる構成となっていました。チャールズ本人はドラマについて恐ろしく正確だとSNSに投稿しています。
現在、イングラムはスリラー小説の執筆やアクセサリーの行商で生計を立てていると報じられています。妻のダイアナが手作りのアクセサリーをデザインし、チャールズが各地のイベントで販売する生活です。かつて100万ポンドを手にしかけた男の現在の姿として、多くのメディアが報じました。
まとめ
- イングラムは妻ダイアナと共犯者ウィトックの咳による合図で英国版ミリオネアの100万ポンドを不正獲得したとされ、2003年の裁判で有罪となった
- 賞金は支払われず、咳少佐の異名とともに軍のキャリアも失った。しかし夫妻は20年以上にわたり無罪を主張し続けている
- 不正の手口は単純な咳だが、それが偶然か意図的かの判断は極めて難しい。テレビ番組のセキュリティの甘さと、高額賞金が人を狂わせる危険性を示す事例だ
よくある質問
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Qイングラムは実刑を受けましたか?
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A
実刑にはなっていません。チャールズとダイアナのイングラム夫妻にはそれぞれ18ヶ月の執行猶予付き判決が下されました。共犯者のウィトックには12ヶ月の執行猶予付き判決です。ただし罰金と訴訟費用の支払いが命じられ、100万ポンドの賞金は一切支払われませんでした。
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Q本当に咳で不正をしたのですか?冤罪の可能性はありますか?
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A
法的には2003年の裁判で有罪が確定しています。しかし弁護側は音声証拠の改ざんを主張し、イングラム夫妻は現在も無罪を主張し続けています。共犯者ウィトックに咳の持病があったという事実や、多くの観客がいるスタジオで特定の咳を聞き分けられるのかという疑問から、冤罪の可能性を指摘する声も根強くあります。
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Qこの事件をもとにした映画やドラマはありますか?
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A
2020年に英国ITVで全3話のドラマQUIZが放送されました。マシュー・マクファディンがイングラム役、マイケル・シーンが司会クリス・タラント役を演じています。番組の誕生から不正事件、裁判までを描いた作品で、不正があったのかなかったのかを視聴者に委ねる構成が話題になりました。日本ではスターチャンネルEXなどで視聴可能です。
【出典】参考URL
- TrapRadar:最も物議を醸したクイズ番組 – イングラム事件の解説
- Onlineジャーニー:イングラムの有罪判決後の生活
- スターチャンネル:ドラマQUIZ(クイズ~100万ポンドを夢見た男~)作品情報


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