- アイルランドの大手銀行AIBの米国子会社Allfirstのトレーダー、ジョン・ラスナックが約5年間にわたり為替取引で損失を隠し続け、約6.91億ドル(約850億円)の損害を出した
- 手口は架空のオプション取引を作成し、偽の保険料を収益として計上するもの。バックオフィスの統制不足とリスク管理の不備が発見を遅らせた
- ラスナックは司法取引で懲役7年6カ月の判決。2008年に釈放。AIBのCEOと会長は辞任を申し出たが取締役会は受理せず、Allfirstの幹部6名が解雇された
1997年頃から始まったたった一人のトレーダーによる不正取引は、5年間にわたり誰にも気づかれることなく続きました。アイルランドの大手銀行アライド・アイリッシュ・バンク(AIB)の米国子会社Allfirstに勤めていたジョン・ラスナックは、為替取引で出した損失を隠すために架空のオプション取引を次々と作り上げ、最終的に6.91億ドル(約850億円)の損害を銀行に与えました。
2002年1月、他のスタッフが取引の不審な確認伝票に気づき、前月12月の為替取引高が250億ドルというAIBの企業価値を上回る異常な規模であることが発覚。ラスナックは行方不明となりましたが、その後妻に全てを告白し、司法取引に応じて懲役7年6カ月の判決を受けました。
事件の背景:AIBとAllfirst
アライド・アイリッシュ・バンク(AIB)はアイルランドの主要な商業銀行の一つで、米国メリーランド州に子会社Allfirst Financialを保有していました。ジョン・ラスナックはAllfirstの為替トレーダーとして勤務し、自己勘定の為替取引を担当していました。
不正の手口:架空オプションと偽の収益
ラスナックの不正は、1997年頃に為替取引で損失を出したことから始まりました。
損失を取り戻そうとしたラスナックは、実際には存在しない架空のオプション取引を作成し、その偽の保険料(プレミアム)を収益として計上する手法を用いました。さらに、実在するディープ・イン・ザ・マネーのオプションを取引相手に高額のプレミアムで売却し、その代わりに巨額の未記録の債務を銀行に背負わせました。VaR(バリュー・アット・リスク)などのリスク管理ツールも操作し、バックオフィスのスタッフに通常の確認手続きを省略させるよう説得していました。
発覚から判決まで
- 1997年頃ラスナックが為替取引で損失、隠蔽を開始自己勘定の為替取引で損失を出したラスナックが、損失を取り戻そうとして架空のオプション取引を作成。偽のプレミアムを収益として計上し始めた。
- 1997年〜2001年5年間にわたり不正を継続損失を取り戻そうとしてさらに大きなリスクを取り、損失が雪だるま式に拡大。2001年12月の為替取引高は250億ドルに達し、これはAIBの企業価値を上回る異常な規模だった。
- 2002年1月不審な確認伝票で発覚Allfirstの他のスタッフが取引の不審な確認伝票に気づき、異常な取引規模が発覚。ラスナックは行方不明となるが、その後妻に全てを告白した。
- 2002年2月AIBが損失額6.91億ドルを公表AIBがラスナックの不正取引による損失額を6.91億ドルと発表。CEOのマイケル・バックリーと会長が辞任を申し出たが取締役会は受理せず。Allfirstの幹部6名が解雇された。
- 2003年1月ラスナックに懲役7年6カ月司法取引によりラスナックに懲役7年6カ月の判決。2008年7月に釈放された。釈放後はボルチモアでクリーニングフランチャイズの運営に携わっている。

ラスナックの事件は、1995年のベアリングズ銀行破綻(ニック・リーソン)に次ぐ規模の不正トレーダー事件でした。どちらの事件も、バックオフィスの統制不足と、トレーダーが自分の取引を自分で確認できる体制が根本原因です。
現代に通じる教訓
AIB事件の根本原因は、リスク管理の不備とバックオフィスの独立性の欠如にあります。
ラスナックはバックオフィスのスタッフを説得して通常の確認手続きを省略させていました。また、Allfirstには自己勘定取引を監視する十分な体制がなく、経営陣もトレーディング部門のリスクを適切に把握していませんでした。通貨監督庁(OCC)からの警告もありましたが、適切に対応されず、不正が5年間も見過ごされたのです。

釈放後のラスナックはクリーニングフランチャイズの運営に携わり、60人の従業員(多くが元受刑者)を雇用しているそうです。刑務所内では受刑者たちに個人の財務管理の基本を教えていたといいます。財務のプロが財務を破壊し、その後財務の基本を教えるという皇軮な展開です。
まとめ
- AIB子会社Allfirstのトレーダーが5年間架空取引で損失を隠し続け、6.91億ドルの損害を出した
- 根本原因はバックオフィスの統制不足とリスク管理体制の不備。規制当局の警告も無視された
- ラスナックは懲役7年6カ月で2008年釈放。ベアリングズ銀行事件と並ぶ不正トレーダー事件の代表例
よくある質問
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Qラスナックはどのように不正を隠していたのですか?
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A
実際には存在しない架空のオプション取引を作成し、その偽のプレミアムを収益として計上する手法です。またVaRなどのリスク指標も操作し、バックオフィスのスタッフに確認手続きを省略させていました。トレーダー自身が確認プロセスに介入できる体制が不正を可能にしました。
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QAIBは現在どうなっていますか?
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A
AIBは事件後、米国子会社Allfirstを売却しました。AIB自体はアイルランドの主要銀行として現在も営業を続けています。2008年の金融危機ではアイルランド政府から公的資金の注入を受けましたが、その後経営を再建しています。
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Qベアリングズ銀行事件との違いは何ですか?
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A
ベアリングズ銀行事件(1995年)ではニック・リーソンが先物取引で紈13億ドルの損失を出し、233年の歴史を持つ名門銀行を破綻に追い込みました。AIB事件の損失額は6.91億ドルと小さく、AIB自体は破綻しませんでしたが、不正の手口(架空取引で損失を隠蔽)と統制不備という根本原因は共通しています。
【出典】参考URL
- CliffsNotes:ルドヴィッヒ報告書の要旨、架空オプションの手口、VaR操作、Allfirst幹部6名解雇
- The Irish Times:ラスナック本人のインタビュー、懲役7年6カ月、2008年釈放、釈放後の生活
- The Washington Post:損失額6.91億ドル、Allfirst幹部6名解雇


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