- 元住宅ローンブローカーのマシュー・コックスは、他人の不動産の名義を偽造書類で自分に移し、実際の価値の5〜6倍の融資を銀行から引き出す詐欺を繰り返した
- 約30の偽名を使い分け、推定5500万ドルの被害を生んだ末、シークレットサービスの最重要指名手配犯となった
- 3年間の逃亡の末に逮捕され、懲役26年の判決。13年の服役を経て2019年に出所し、現在は犯罪作家・ポッドキャスターとして活動している
架空の人物を作り出し、その人物に家を買わせ、ローンを組ませ、金だけを抜き取る――。マシュー・コックスの住宅ローン詐欺は、不動産取引のあらゆる段階で書類を偽造するという徹底的なものでした。映画レザボア・ドッグスのキャラクター名を偽名に使うなど大胆不敵な行動を取りながら、3年間にわたりFBIとシークレットサービスの追跡をかわし続けたのです。
この記事では、住宅ローンの仕組みを知り尽くした元ブローカーがいかにしてアメリカ最大級の融資詐欺を実行したのかを解説します。
コックスの経歴と詐欺への転落
マシュー・コックスとは、フロリダ州出身の元住宅ローンブローカーであり、身分詐称と書類偽造を駆使した住宅ローン詐欺の首謀者です。
重度の読字障害(ディスレクシア)を抱えて育ったコックスは、教師から手を使う仕事に就くよう勧められ、サウス・フロリダ大学で彫刻を専攻し美術を学びました。卒業後は保険代理店を経て住宅ローンブローカーに転身。しかし収入に満足できず、やがて顧客の書類を偽造してローンを通す不正に手を染めていきます。
コックスは自身のブローカー会社を設立し、社内ルールはただひとつ。ドアを開けて入ってきた人間には、脈があるなら全員にローンを組ませるというものでした。14人の従業員が組織的に住宅ローン詐欺を行い、2002年に最初の有罪判決を受けて保護観察処分となります。
架空の人物と不動産の名義偽造
保護観察中にコックスは犯罪を本格化させ、他人の不動産の名義を偽造した権利放棄証書(クイットクレイム・ディード)で自分に移し、その物件に複数の住宅ローンを組むという手口を確立しました。
コックスは約30の偽名を使い分けましたが、初期の偽名は映画レザボア・ドッグスのキャラクターに由来しており、レッド、ブルー、グリーンなど明らかに不自然な姓を使っていました。これらの架空の人物を使って近隣の不動産取引を偽装し、4万ドルの物件が19万ドルの価値があるかのように銀行と鑑定士を欺いていたのです。
さらにW-2税務申告書、給与明細、銀行の在籍証明書まで偽造し、架空の金融機関バンク・オブ・イボーまで作り上げています。こうした偽造書類を使って、1つの物件に複数の銀行から同時にローンを引き出すことで、推定5500万ドルに上る被害が生じました。

コックスの事件は、住宅ローンの仕組みを知り尽くした内部者が犯す詐欺がいかに検知困難かを示しています。不動産登記は公的な記録ですが、権利放棄証書の提出自体には厳密な本人確認が伴わない地域も多く、この制度的な隙間がコックスの犯罪を可能にしました。日本でも地面師事件が示す通り、不動産の名義変更には常に注意が必要です。
3年間の逃亡と逮捕
2003年末にFBIの捜査が迫ると、コックスは保護観察に違反して3年間にわたる逃亡生活に入りました。
恋人のレベッカ・ハウクとともにアトランタ、ラスベガス、ジャマイカ、シャーロットなど全米各地を転々としながら、逃亡先でも偽の身分証明書を作成して住宅ローン詐欺を続けています。資金が不足するたびに新しい偽名で家を購入し、複数のローンを組んでは現金化するというサイクルを繰り返しました。
2006年5月、コックスはシークレットサービスの最重要指名手配犯リストに掲載されました。同年11月16日、シークレットサービスのウェブサイトで顔写真を見た人物からの通報を受け、テネシー州ナッシュビルで逮捕されています。逮捕時のコックスは約30の偽名のひとつを使用しており、当初は身元の特定すら困難でした。
共犯のレベッカ・ハウクはその前にヒューストンで逮捕され、共謀と銀行詐欺で約6年の禁固刑を受けています。
判決と現在
コックスは42の罪状で起訴され、最大で400年以上の禁固刑に直面しました。
司法取引の結果、銀行詐欺、身分詐称、パスポート詐欺、住宅ローン詐欺共謀、保護観察違反の6件に罪状が絞り込まれ、2007年11月17日にティモシー・バッテン判事から懲役26年と597万ドルの賠償金が言い渡されました。
コックスは13年間の服役を経て2019年7月に出所しています。出所後はフロリダ州で犯罪ノンフィクション作家、ポッドキャスター、講演者として活動中です。自伝Shark in the Housing PoolやYouTubeチャンネルInside True Crimeを運営し、Lex Fridman Podcastへの6時間にわたる出演が大きな反響を呼びました。CNBC American Greed、Dateline NBCなど多数のメディアでも取り上げられています。
まとめ
- コックスは不動産の名義偽造と約30の偽名を駆使し、物件の実際の価値の5〜6倍のローンを銀行から詐取。推定被害額は5500万ドルに上る
- シークレットサービスの最重要指名手配犯となり、3年間の逃亡の末に逮捕。懲役26年の判決を受けた
- 自分の不動産が勝手に名義変更されていないか定期的に確認することが、不動産詐欺から身を守る最も基本的な対策だ
よくある質問
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Q不動産の名義を勝手に変えられることはありますか?
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A
アメリカでは権利放棄証書(クイットクレイム・ディード)の提出に厳密な本人確認が伴わない地域があり、偽造書類での名義変更が可能な場合があります。日本でも地面師事件に見られるように、偽造されたパスポートや印鑑証明を使った不動産の不正な名義変更は実際に発生しています。定期的に登記情報を確認することが重要です。
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Qコックスは現在何をしていますか?
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A
2019年に13年の服役を経て出所し、フロリダ州で犯罪ノンフィクション作家として活動しています。自伝Shark in the Housing PoolやYouTubeチャンネルInside True Crimeを運営し、不動産詐欺の手口を解説する講演活動も行っています。2024年にはLex Fridman Podcastに出演し、6時間にわたるインタビューが話題となりました。
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Qなぜ銀行はコックスの偽造書類を見抜けなかったのですか?
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A
コックスは住宅ローンブローカーとして業界の審査プロセスを熟知しており、銀行が何を確認するかを正確に把握していました。W-2税務申告書や給与明細、銀行の在籍証明書など、審査で求められる全ての書類を精巧に偽造していたため、標準的な審査では不正を検知できなかったのです。また複数の銀行に同時にローンを申請する手口は、各銀行が他行の融資状況を把握できないという構造的な弱点を突いたものでした。
【出典】参考URL
- Wikipedia:Matthew Cox:経歴、詐欺の手口、逃亡と逮捕、判決
- 米シークレットサービス:最重要指名手配犯逮捕のプレスリリース
- NBC News:コックスの有罪答弁の報道
- Grokipedia:詐欺手法と逃亡の詳細分析


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