- 仏大手銀行ソシエテ・ジェネラルの31歳のトレーダーが、無断取引で49億ユーロ(約7500億円)の損失を出した。一人のトレーダーによる損失額としては史上最大級
- エリート養成のグランゼコール出身ではなく、ミドルオフィスからフロントに転じたことでリスク管理の抜け穴を熟知していた
- 禁固3年の判決に加え49億ユーロの賠償命令を受けたが、後に不当解雇で銀行側が約5500万円の賠償を命じられるという皮肉な展開も
2008年1月24日、フランスの大手銀行ソシエテ・ジェネラルが衝撃的な発表を行いました。31歳のたった一人のトレーダーの不正取引により、49億ユーロ(約7500億円)の損失を計上したというのです。この金額は、ベアリングス銀行を破綻させたニック・リーソンの損失額を遥かに上回るもので、一人のトレーダーが出した損失としては史上最大級の規模でした。
ジェローム・ケルヴィエルは、エリート街道から外れた銀行員が、認められたいという欲求から無謀な取引に走り、歴史的な損失を出した事件の主人公です。
ケルヴィエルの経歴と動機
ケルヴィエルの不正取引の背景には、フランスのエリート主義の中で存在感を示したいという強い欲求がありました。
鉄工員と美容師の両親のもとに生まれ、リヨン第2大学で最高学位を取得しましたが、フランスのエリート養成機関であるグランゼコールの出身ではありませんでした。ソシエテ・ジェネラルの多くの幹部やファンドマネジャーがグランゼコール出身者で占められている中、ケルヴィエルは2000年に入行後、まずミドルオフィス(リスク管理部門)に配属されています。
2005年にフロントオフィスのトレーダーに転じ、欧州の株価指数の裁定取引を担当しました。ミドルオフィス時代にリスク管理システムの仕組みを熟知していたことが、後に不正取引を隠蔽する能力につながったのです。
不正取引の手口と発覚
ケルヴィエルは、裁定取引を装いながら実際にはヘッジなしの巨額ポジションを取っていました。
裁定取引とは、異なる市場間の価格差を利用して低リスクで利益を得る手法です。しかしケルヴィエルは裁定取引の片方のポジションだけを保有し、実質的には方向性に賭ける投機を行っていたのです。利益が出れば正規の取引として報告し、損失が出ればミドルオフィス時代の知識を使って隠蔽するという手法を繰り返しました。
2008年1月に不正が発覚した時点で、ケルヴィエルが保有していたポジションの総額は約500億ユーロに達しており、これはソシエテ・ジェネラルの時価総額を超える規模でした。銀行がこのポジションを緊急に処分(アンワインド)した結果、最終的な損失は49億ユーロとなっています。

リーソンとケルヴィエルの事件に共通するのは、リスク管理の監視対象者がリスク管理の仕組みを熟知していたという構造的問題です。ケルヴィエルはミドルオフィス出身だからこそ、どのアラートが鳴り、どうすれば回避できるかを知っていました。内部統制の設計において、管理者側の知識が悪用されるリスクを想定することが不可欠です。
判決とその後の展開
2010年、ケルヴィエルは禁固3年と49億ユーロの賠償命令を受けました。
ケルヴィエルはスケープゴートにされるつもりはないと主張し、銀行側にも責任の一端があると訴えました。実際、2016年にフランスの労働裁判所はケルヴィエルの解雇は不当だったとして、ソシエテ・ジェネラルに45万ユーロ(約5500万円)の賠償を命じています。裁判所は、銀行側がケルヴィエルの疑わしい取引をかなり以前から把握していたと指摘しました。
この判決は、不正トレーダー個人だけでなく、不正を見逃した(あるいは黙認した)組織の責任も問われるべきだという議論を巻き起こしました。
まとめ
- ケルヴィエルはミドルオフィス時代の知識を悪用し、裁定取引を装った投機で49億ユーロの損失を出した
- リスク管理の監視対象者がリスク管理の仕組みを熟知していた構造的欠陥が不正を可能にした
- 後に不当解雇で銀行側に賠償命令が下されるなど、不正を黙認した組織の責任も問われた。個人と組織の双方の責任を問う視点が重要だ
よくある質問
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Qリーソンの事件との違いは何ですか?
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A
損失額が大幅に異なります。リーソンの損失が約1380億円だったのに対し、ケルヴィエルは約7500億円と5倍以上の規模でした。ただしリーソンの場合は銀行そのものが破綻したのに対し、ソシエテ・ジェネラルは増資で生き残っています。また、ケルヴィエルはミドルオフィス出身で監視システムの知識を持っていた点が特徴的です。
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Q49億ユーロの賠償金は支払われましたか?
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A
現実的に支払い不可能な金額です。ケルヴィエルはこの賠償命令について上訴を続けており、後に賠償額は減額されています。一方で不当解雇の訴訟では逆にソシエテ・ジェネラル側が賠償を命じられるという複雑な法的展開となりました。
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Qケルヴィエルは個人的に利益を得ていましたか?
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A
個人的な横領や着服は確認されていません。ケルヴィエルの動機は金銭よりも、エリート社会の中で花形トレーダーとして認められたいという承認欲求だったとされています。利益が出れば賞与が増える仕組みではありましたが、損失額に見合うような個人的利得はありませんでした。


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