- ラッキンコーヒーは約22億元(約340億円)の売上を架空計上し、急成長する優良企業を演じていた
- 創業からわずか18ヶ月でナスダック上場を果たした超高速成長の裏で、数字の大半が嘘だった
- 不正発覚後にナスダックから上場廃止となったが、経営陣を刷新し数年で営業黒字に復帰するという異例の再建を遂げた
創業からわずか2年でスターバックスを超える店舗数。上場までのスピードは中国企業として史上最速クラス。その輝かしい成長ストーリーの半分が嘘だったと知ったら、あなたはどう感じるでしょうか。
2020年に発覚したラッキンコーヒーの不正会計は、中国版スタバと呼ばれた新興企業が約340億円の売上を架空計上していた事件です。しかし驚くべきことに、この会社は不正発覚後に経営を立て直し、現在は黒字企業として再び成長を続けています。
この記事では、ラッキンコーヒーがなぜ・どうやって売上を偽ったのか、空売りファンドがどのように不正を暴いたのか、そしてこの事件が個人投資家に教えてくれることを解説します。
ラッキンコーヒーとは?18ヶ月で上場した中国の怪物企業
ラッキンコーヒー(瑞幸珈琲)とは、2017年に中国で創業され、アプリでの注文・モバイル決済に特化した「テクノロジードリブン」のコーヒーチェーンです。
従来のカフェとは異なり、店舗の多くは座席のないピックアップ専用。アプリで注文し、最寄りの店舗で受け取るか、デリバリーで届けてもらう。このモデルによって店舗コストを抑えながら猛スピードで出店し、2019年末には中国全土に4,500店超を展開、スターバックスの中国店舗数を上回りました。
さらに驚異的なのはそのスピードです。2017年10月の1号店オープンからわずか18ヶ月後の2019年5月にナスダック上場を果たしました。IPO時の時価総額は約42億ドル。中国のスタートアップ史でも類を見ない急成長でした。
しかしこの速度の裏には、投資家を惹きつけるために数字を作り上げるという致命的な不正が潜んでいたのです。
不正の手口:売上の約半分が架空だった
ラッキンコーヒーの不正の核心は、2019年の第2四半期から第4四半期にかけて、約22億元(約340億円)の売上を架空計上していたことです。報告された売上高の約半分が実在しない取引でした。
架空取引の仕組み
架空売上の具体的な手口として指摘されているのは、法人向けクーポンの大量発行です。関連当事者(経営陣と関係のある企業)にクーポンを大量に販売したように見せかけ、これを売上として計上していたとされています。
実際にはコーヒーが売れていないのに、帳簿上は売れたことになっている。さらに架空の売上に合わせて経費も水増しすることで、利益率を不自然に見せないよう調整していました。架空の売上だけを計上すると利益率が異常に高くなってしまうため、架空の経費もセットで計上するという二重の偽装が行われていたのです。
マディ・ウォーターズとABの空売りレポート
ラッキンコーヒーの不正を最初に暴いたのは、空売りリサーチファンドのマディ・ウォーターズ・リサーチでした。2020年1月、マディ・ウォーターズは匿名の調査レポートを公開し、ラッキンの売上が大幅に水増しされている証拠を提示しました。
このレポートは1,500人以上の店舗調査員を動員し、中国全土のラッキン店舗で実際の来客数や購買データを収集するという大規模な実地調査に基づいていました。調査の結果、報告されている1店舗あたりの売上と、実際の来客数から推計される売上に大きな乖離があることが示されたのです。
事件の全貌:超高速上場から転落まで
ラッキンコーヒーの急成長と転落は、わずか3年間の出来事です。そのスピード感は事件の異常さを際立たせています。
- 2017年10月1号店オープン北京に1号店をオープン。アプリ注文・モバイル決済特化のビジネスモデルで急速に出店を拡大。大幅なクーポン割引で顧客を獲得。
- 2019年5月ナスダック上場創業から約18ヶ月でナスダックにIPO。時価総額42億ドル。中国のテック企業として史上最速クラスの上場を達成。
- 2020年1月空売りレポートが公開マディ・ウォーターズが匿名レポートを公開。1,500人以上の調査員による実地調査で売上の水増しを指摘。ラッキン側は全面否定。
- 2020年4月不正会計を自ら公表内部調査の結果、約22億元(約340億円)の架空売上を認める。COOの劉剣が主導したと発表。株価は一時80%以上暴落。
- 2020年6月ナスダック上場廃止ナスダックが上場廃止を決定。CEOの陸正耀も解任。SECとの和解で1億8,000万ドルの制裁金を支払うことで合意。
- 2022年〜経営再建と黒字転換新経営陣のもとで事業を再構築。不採算店舗の整理とフランチャイズモデルの拡大により、営業黒字に転換。2023年には中国国内で約16,000店舗を展開。

不正で上場廃止になった企業が、わずか2年で黒字に戻るのは本当に珍しいケースですよね。不正をした経営陣は去りましたが、ビジネスモデル自体は生き残った。これは「嘘をつかなくても成立するビジネスだった」ことの証明でもあります。
現代への教訓:急成長企業の数字を疑う目を持つ
ラッキンコーヒー事件の最大の教訓は、急成長する企業ほど数字の裏付けを確認する必要があるということです。成長率やスピードに目を奪われると、数字の信頼性を確認するステップを飛ばしてしまいます。
投資家として注意すべきチェックポイントは以下の通りです。
| 危険信号 | ラッキンのケース | 確認すべきこと |
|---|---|---|
| 異常に速い成長速度 | 18ヶ月で上場、2年で4,500店 | 同業他社と比較して非現実的でないか |
| 大幅な値引き依存 | 1杯無料クーポンを大量配布 | クーポンなしでも顧客が来るか |
| 売上と来客数の不整合 | 報告売上と実際の来客に乖離 | 単価×来客数で売上を逆算できるか |
| 関連当事者との取引 | 経営陣関連企業への売上 | 売上先に関連当事者がないか |
まとめ
- ラッキンコーヒーは約340億円の売上を架空計上し、創業18ヶ月で上場した急成長の半分が嘘だった
- 空売りファンドマディ・ウォーターズの実地調査が不正の端緒となり、その後の内部調査で全容が判明した
- 急成長企業の投資では成長速度・値引き依存度・売上の整合性を必ず確認し、数字が本物かどうかを疑う視点を持つことが重要だ
よくある質問
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Qラッキンコーヒーは現在も営業していますか?
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A
はい、営業を続けています。不正会計を行った経営陣は排除され、新経営陣のもとで経営再建を進めた結果、2022年には営業黒字に転換しました。2023年時点で中国国内に約16,000店舗を展開し、スターバックスを大幅に上回る店舗数となっています。
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Q空売りファンドとは何ですか?
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A
空売りファンドとは、企業の不正や過大評価を調査し、株価が下がると利益が出るポジション(空売り)を取りながら調査レポートを公開する投資ファンドです。マディ・ウォーターズのほか、シトロン・リサーチやヒンデンブルグ・リサーチなどが有名です。自身の利益のために調査するため利益相反が指摘されることもありますが、不正の早期発見に貢献するケースも多くあります。
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Qこの事件で日本の投資家に影響はありましたか?
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A
ラッキンはナスダック上場だったため、米国株投資をしていた日本の個人投資家にも影響がありました。また、この事件をきっかけに米中間で中国企業の監査アクセスに関する対立が激化し、中国企業のADR(米国預託証券)全体への不信感が高まりました。
【出典】参考URL
- Luckin Coffee – Wikipedia(英語版):設立経緯、上場、不正会計の詳細
- SEC(米証券取引委員会):制裁金の詳細と和解内容
- Forbes Japan:ラッキンコーヒーの不正発覚と再建の詳報


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