- 韓国出身のド・クウォンが設立したTerraform Labsは、アルゴリズム型ステーブルコインUSTとLUNAを発行し、年利約20%の高利回りで投資家を集めた
- 2022年5月にUSTのドルペッグが崩壊し、約400億ドル(約6兆円)が1週間で消失。100万人以上の投資家が被害を受けた
- 偽造パスポートで逃亡中に逮捕され、2025年に有罪を認め、禁固15年と1900万ドルの資産没収が命じられた
私はこれまで多くのことを間違えてきた。しかし詐欺はしていない――。ド・クウォンは逮捕後もそう主張し続けていました。しかし2025年8月、ついに自ら詐欺を認め、有罪答弁に踏み切っています。約400億ドルを一瞬で消し飛ばしたTerra/LUNA崩壊は、暗号資産史上最大級の惨事として記録されることになりました。
この記事では、スタンフォード大学出身の天才開発者がなぜ世界中の投資家を欺くことになったのか、その手口と崩壊の過程、そして裁判の結末までを詳しく解説します。
ド・クウォンの経歴とTerraform Labsの設立
ド・クウォンとは、1991年に韓国で生まれたブロックチェーン開発者であり、Terraform Labsの共同創設者です。
本名はクォン・ドヒョン。韓国の名門・大元外国語高等学校を卒業後、アメリカのスタンフォード大学に進学し、コンピュータサイエンスを専攻しました。2015年に卒業すると、AppleとMicrosoftでそれぞれ短期間エンジニアとして勤務しています。
しかしクウォンは大企業での勤務にすぐ見切りをつけ、韓国に帰国して起業の道を選びました。2018年、ダニエル・シンとともにシンガポールを拠点にTerraform Labsを設立。米ドルと1対1で連動するアルゴリズム型ステーブルコインTerraUSD(UST)と、その価値を支えるトークンTerra(LUNA)を開発したのです。
クウォンはSNS上で非常に攻撃的な人物として知られていました。自身のプロジェクトを批判する経済学者やアナリストに対して、彼らを貧乏人やゴキブリと呼んで嘲笑する投稿を繰り返しています。あるインタビューでは、他の暗号資産企業が潰れるのを見るのは楽しいとまで発言していました。
アルゴリズム型ステーブルコインの仕組みと罠
USTの最大の問題点は、実際の米ドルに裏付けられていないステーブルコインだったことです。
通常のステーブルコイン(例えばUSDTやUSDC)は、発行額と同等の米ドルや国債を準備金として保有しています。しかしUSTは、LUNAトークンとの間で自動的にミント(発行)とバーン(焼却)を行う仕組みでドルとの連動を維持する設計でした。
さらにクウォンは、USTを預け入れると年利約20%の利回りが得られるAnchor Protocolを提供しました。銀行預金の金利が1%にも満たない時代に20%という数字は、世界中の投資家を惹きつけるのに十分だったのです。しかし一部の専門家は早くから、この高利回りの原資がどこから来ているのか不透明であり、巨大なポンジ・スキームに過ぎないのではないかと警告を発していました。
検察の主張によれば、クウォンはUSTのドルペッグが一度崩れかけた2021年の危機の際、表向きはアルゴリズムが自動的に機能したと説明しました。しかし実際には暗号資産取引会社ジャンプ・トレーディングが密かに介入してペッグを回復させていたことを隠していたのです。自律的に機能するシステムだという宣伝は、最初から虚偽だった可能性が高いとされています。
2022年5月の崩壊と被害の全貌
2022年5月9日、USTのドルペッグが崩壊を始め、わずか1週間で約400億ドル(約6兆円)の時価総額が消失しました。
大量のUST売却が発生したことで、USTとLUNAの間のバランス調整メカニズムが機能不全に陥りました。USTの価格が下がるとLUNAが大量に発行され、LUNAの価格も暴落。さらにLUNAの暴落がUSTへの信頼を失わせるという悪循環、いわゆるデス・スパイラルが発生したのです。
USTは最終的に0.02ドルまで下落し、LUNAは史上最高値119.51ドルから実質的にゼロになりました。被害者は世界中で100万人以上にのぼり、韓国だけでも約20万人の国内投資家が被害を受けています。
崩壊の直後、約200万ドルを失ったと主張する投資家がクウォンの高層マンションに押しかけ、謝罪を要求する事態も発生しました。クウォンの妻は警察に緊急保護を申請しています。

この事件で特に怖いのは、年利20%という数字に多くの人が飛びついたことです。銀行預金の何十倍もの利回りが持続可能なはずがない――冷静に考えればわかることですが、暗号資産バブルの熱狂の中では、その冷静さが失われてしまいます。
どんな投資でも、異常に高い利回りには必ず裏があります。これはTerra/LUNAに限らず、すべての投資詐欺に共通する鉄則です。
逃亡・逮捕・裁判の経緯
崩壊後、クウォンは各国を転々とし、2023年3月にモンテネグロで偽造パスポートを使って逮捕されました。
- 2018年Terraform Labs設立シンガポールを拠点にダニエル・シンと共同設立。USTとLUNAの開発に着手する。
- 2022年5月UST・LUNAが崩壊USTのドルペッグが崩壊し、約400億ドルの時価総額が消失。100万人以上の投資家が被害を受ける。
- 2022年9月韓国が逮捕状を発付韓国当局がクウォンら6名に対して逮捕状を発付。クウォンは既に韓国を離れており、国際的な逃亡が始まる。
- 2023年3月モンテネグロで逮捕コスタリカの偽造パスポートでドバイ行きの飛行機に搭乗しようとしたところを逮捕される。文書偽造で懲役4ヶ月の実刑判決。
- 2024年6月SECと和解成立米SECとの民事訴訟で和解。Terraform Labsとクウォンに合計44億7000万ドルの罰金が科される。クウォン個人は2億ドル以上の支払いを命じられた。
- 2024年12月31日米国に引き渡し大晦日にモンテネグロから米国に引き渡される。ニューヨーク連邦地裁で9つの罪状に対して無罪を主張した。
- 2025年8月有罪答弁9つの罪状のうち2件(電信詐欺と共謀罪)について有罪を認める司法取引に応じる。検察は禁固12年を超える求刑をしないことで合意。
- 2025年12月11日禁固15年の判決ニューヨーク連邦地裁のエンゲルマイヤー判事が禁固15年と1900万ドル以上の資産没収を言い渡す。判事は「あなたは詐欺の道を選んだ」と述べた。
判決公判でエンゲルマイヤー判事は、クウォンの人生を驚くべき栄光と転落と評しました。検察のモータザヴィ検事は、Terra崩壊によって多くの投資家が深刻なうつ状態に陥り、借金に溺れたと述べています。
クウォンはモンテネグロでの収監生活について、ほぼ完全な孤立状態に置かれ、石鹸やトイレットペーパーを得るにも看守にタバコで賄賂を贈る必要があったと書簡で明かしています。刑期の後半は韓国での服役が認められる可能性もありますが、韓国でもさらなる訴追が待ち受けているとされています。
まとめ
- ド・クウォンはアルゴリズム型ステーブルコインUSTの欠陥を隠蔽し、年利20%の高利回りで投資家を集めたが、2022年5月に約400億ドルが消失した
- 偽造パスポートで逃亡するも逮捕され、2025年に有罪答弁。禁固15年と1900万ドルの資産没収、さらにSECとの民事和解で44億7000万ドルの罰金が科された
- 異常に高い利回りは詐欺のサインだ。暗号資産であっても、仕組みが理解できない投資には手を出さないことが最大の自衛策となる
よくある質問
- Qアルゴリズム型ステーブルコインと通常のステーブルコインは何が違いますか?
- A
通常のステーブルコイン(USDTやUSDC)は発行額と同等の米ドルや国債を準備金として保有しており、いつでも裏付け資産と交換できます。一方、アルゴリズム型はそのような担保資産を持たず、別のトークンとの自動売買メカニズムだけで価格を安定させようとします。TerraUSD(UST)はこの後者に該当し、大量の売りが殺到した際にメカニズムが機能不全に陥り崩壊しました。
- QTerra/LUNA崩壊は他の暗号資産市場にどんな影響を与えましたか?
- A
Terra/LUNA崩壊は暗号資産市場全体に連鎖的な打撃を与えました。ヘッジファンドのスリー・アローズ・キャピタルが破綻し、レンディング企業のセルシウスやボイジャー・デジタルも連鎖的に経営破綻しています。最終的にFTXの崩壊にも間接的につながったとされており、暗号資産業界全体の信頼を根底から揺るがす結果となりました。
- QTerra/LUNAの被害者は資産を取り戻せましたか?
- A
ほとんどの個人投資家は資産を取り戻せていません。SECとの民事和解で44億7000万ドルの罰金が科されましたが、Terraform Labsは破産申請しており、実際にどれだけの金額が被害者に返還されるかは不透明です。崩壊後にLUNA 2.0という新トークンが配布されましたが、旧LUNAの損失を補うにはほど遠い状況が続いています。
【出典】参考URL
- Wikipedia:ドー・クォン:経歴、Terra/LUNAの仕組み、崩壊の経緯
- 米司法省(SDNY):United States v. Kwon 事件概要・判決情報
- BeInCrypto Japan:ド・クウォン裁判スケジュールと詳細
- CoinDesk Japan:SECによる53億ドルの罰金要求と和解の経緯


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