グリーンシル・キャピタル破綻の全貌と架空債権の正体

詐欺事件
グリーンシル・キャピタル破綻の全貌と架空債権の正体を3行で要約
  • グリーンシルは実在しない将来の売掛金を担保に融資を繰り返すサプライチェーンファイナンスの新興企業だった
  • クレディ・スイスの100億ドル規模のファンドとソフトバンク・ビジョン・ファンドの15億ドルの出資を巻き込んで2021年に破綻した
  • 取引信用保険の不更新が引き金となり、英キャメロン元首相のロビー活動まで発覚する大スキャンダルに発展した

売掛金を担保に企業へ融資する。一見すると堅実なビジネスモデルに見えます。しかしその売掛金がまだ発生していない、つまり将来の売上予測に過ぎなかったとしたらどうでしょうか。

グリーンシル・キャピタルは、この将来売掛金ファイナンスと呼ばれる仕組みを使い、存在しない債権を担保に融資を繰り返していました。クレディ・スイスの100億ドル規模のファンド、ソフトバンクの15億ドルの出資、そして英国元首相のロビー活動まで巻き込んだこの事件の全貌を解説します。金融商品の裏付け資産(担保)とは何か、なぜそれが重要なのかを理解するための格好の教材でもあります。

グリーンシル・キャピタルとは

グリーンシルは2011年に元モルガン・スタンレーのレックス・グリーンシルが英国に設立した金融サービス会社です。企業間取引で発生する売掛債権を流動化するサプライチェーンファイナンス(SCF)を主力事業としていました。

サプライチェーンファイナンスの仕組み

通常のサプライチェーンファイナンスは、企業が取引先に支払うべき請求書(売掛金)を第三者が買い取り、取引先に早期に支払う仕組みです。買い取った第三者は、後日元の企業から代金を回収します。取引先は早く現金を受け取れ、企業は支払い猶予を得られるため、双方にメリットがあります。銀行が長年手がけてきた事業ですが、規制強化で銀行にとっては収益性が下がりつつあり、グリーンシルのようなフィンテック新興企業が台頭する余地が生まれていました。

しかしグリーンシルは、この仕組みを逸脱し、まだ発生していない将来の売上予測に基づいて融資を行うようになりました。これは通常のファクタリングとは全く異なるリスクを伴うもので、売上が実現しなければ融資が回収不能になります。

なぜ将来売掛金は危険なのか

通常のファクタリングでは、企業が実際に発行した請求書(すでに商品やサービスが納品された取引)が担保になります。取引先の支払い能力さえ確認できれば、比較的リスクの低い融資が可能です。

一方、将来売掛金ファイナンスでは、まだ発生していない将来の売上予測が担保になります。つまり商品がまだ納品されていない、契約すら締結されていない取引に基づいて融資が行われるのです。売上が実現しなければ融資は回収不能になり、事実上の無担保融資と変わりません。

グリーンシルの場合、この将来売掛金に取引信用保険をかけることで、表面上は安全な投資商品に見せかけていました。しかし保険の前提となる売掛債権自体が架空であった疑いが浮上したことで、保険契約の有効性そのものが問題になりました。

クレディ・スイスとの関係

グリーンシルの資金調達は、クレディ・スイスが運営する100億ドル規模のサプライチェーン専門投資ファンドに全面的に依存していました。グリーンシルは融資債権を債券に組成し、クレディ・スイスのファンドがそれを購入することで現金が供給される仕組みです。

クレディ・スイスの顧客は、これらの商品を低リスクの短期運用先として購入していました。しかし実際には、将来売掛金という不確実な資産が裏付けになっていた商品が相当量含まれていたのです。クレディ・スイス自身もこのリスクを十分に把握できていなかった可能性が指摘されています。

破綻の経緯

グリーンシルの資金源はクレディ・スイスが運営する100億ドル規模の投資ファンドでした。同ファンドが凍結されたことで、資金の流れが止まり崩壊に至りました。

グリーンシル・キャピタル破綻の時系列
  • 2019年
    ソフトバンク・ビジョン・ファンドが約15億ドルを出資
    5月に8億ドル、10月にさらに6.55億ドルを出資。フィンテックの成長企業として高い評価を受けており、企業価値は数十億ドルに達していた。
  • 2020年7月
    取引信用保険の不更新を通知
    東京海上のオーストラリア子会社が、約5000億円規模のグリーンシル向け取引信用保険の更新を拒否。保険の裏付けとなる売掛債権に架空計上の疑いが浮上していた。
  • 2021年3月1日
    クレディ・スイスが関連ファンドを凍結
    クレディ・スイスがグリーンシル関連のサプライチェーンファイナンスファンド(100億ドル規模)の新規設定・償還を停止。スイスの運用大手GAMインベストメンツも追随。
  • 2021年3月8日
    グリーンシルが経営破綻
    英国の裁判所に会社管理手続きを申請。管財人に国際会計事務所グラントソントンが任命された。主要融資先だったGFGアライアンス(鉄鋼大手)では5000人の雇用が脅かされた。
  • 2021年〜
    キャメロン元首相のロビー活動が発覚
    グリーンシルの顧問を務めていたデイヴィッド・キャメロン元英首相が、コロナ禍での政府融資制度へのアクセスを求めて閣僚にロビー活動を行っていたことが判明。英国政治のスキャンダルに発展した。
  • 2024年1月
    クレディ・スイスがソフトバンクを提訴
    クレディ・スイスがロンドン高等裁判所でソフトバンクグループに対して4億4000万ドルの返還を求め提訴。ソフトバンク傘下のカテラ社への融資回収が争点となった。
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クレディ・スイスの投資家は100億ドルを投じ、そのうち74億ドルを回収しましたが、残りの回収には数年かかる見通しです。グリーンシル破綻はクレディ・スイス自身の経営危機にも拍車をかけ、最終的にUBSによる救済合併(2023年)へとつながりました。1社の破綻が世界の金融秩序を揺るがした事例です。

なぜ巨額の資金が集まったのか

グリーンシルに巨額の資金が集まった理由は、低金利環境下でのリターン追求と、フィンテックへの過剰な期待が重なったためです。

クレディ・スイスは、グリーンシルが組成した債券を低リスクの短期運用商品として顧客に販売していました。ところが、その裏付け資産の一部は実在しない将来売掛金だったのです。顧客には短期の安全な債権への投資に見えていたものが、実態は不確実な将来の売上予測に賭けたハイリスク商品でした。

ソフトバンクの孫正義会長はグリーンシル創業者を公の場で紹介するほど信頼を寄せていました。しかしビジョンファンドの出資先企業がグリーンシルの融資先でもあるという利益相反構造も問題視されています。ビジョンファンドが出資するカテラ社がグリーンシルから融資を受けていたため、ソフトバンクは出資者であると同時に間接的な融資先でもあるという二重の立場にありました。この構造的な利益相反は、投資判断を歪めた可能性が指摘されています。

キャメロン元首相のロビー活動

グリーンシル事件は金融スキャンダルにとどまらず、英国政治のロビー活動規制の甘さを露呈させました。

デイヴィッド・キャメロン元首相は2018年からグリーンシルの顧問として報酬を受け取っており、2020年のコロナ禍で政府のCOVID-19関連融資制度へのアクセスを求めて閣僚に直接テキストメッセージを送っていたことが判明しました。元首相が民間企業の利益のために現職閣僚にロビー活動を行っていたこの事実は、英国民に大きな衝撃を与えています。

この問題を受けて英国政府は独立審査を実施し、元閣僚や高官のロビー活動に関する規制強化の議論が進められています。

GFGアライアンスと連鎖倒産リスク

グリーンシルの最大融資先の一つが、インド系英国人サンジーブ・グプタ率いるGFGアライアンス傘下の鉄鋼大手リバティ・スチールでした。グリーンシルの破綻により、リバティ・スチールの資金調達が止まり、英国内で5000人の雇用が脅かされる事態になりました。

1社のフィンテック企業の破綻が実体経済の雇用を直撃する。この連鎖構造は、サプライチェーンファイナンスが経済のインフラに深く食い込んでいたことを示しています。英政府はリバティ・スチールとの緊急協議を行いましたが、同社の国有化は検討しないとしました。

GFGアライアンスの資金調達構造は、グリーンシルへの過度な依存という脆弱性を抱えていました。通常、大企業は複数の銀行から融資を受けてリスクを分散しますが、GFGアライアンスはグリーンシルを主要な資金源としていたため、グリーンシルが倒れれば連鎖的に資金が枯渇する構造でした。これは取引先の信用リスクを自社の事業リスクに直結させてしまう典型的な失敗例です。

現代に通じる教訓

グリーンシル事件は、金融の複雑さが透明性を犠牲にするとき、巨額の損失は不可避になることを示しました。

サプライチェーンファイナンス自体は正当な金融手法ですが、将来売掛金という不確実な資産を担保にした融資は、事実上の無担保融資に近い性質を持ちます。それを債券に組成して低リスク商品として販売すれば、リスクは投資家に転嫁されます。

個人が直接この種の商品に投資する機会は限られますが、銀行や運用会社を通じて間接的にリスクを負っている可能性はあります。自分の預金や投資信託がどのような資産で運用されているか、定期的に確認することが重要です。

グリーンシル事件は、金融イノベーションの光と影を象徴しています。サプライチェーンファイナンスは中小企業の資金繰りを助ける有益な仕組みですが、それを将来売掛金にまで拡張し、保険と証券化で多層的にリスクを隠蔽すると、システミックリスクに発展する危険があります。

とりわけ注意すべきは、フィンテック企業が既存の金融規制の枠外で急成長するケースです。グリーンシルは銀行ではないため、銀行並みの自己資本規制や開示義務を負っていませんでした。規制の空白地帯で巨大化したビジネスモデルが崩壊したとき、その影響は規制対象の金融機関や実体経済にまで及ぶのです。

まとめ

  • グリーンシルは将来売掛金という実体のない資産を担保に融資を拡大し、フィンテックの成長企業として100億ドル超の資金を集めた
  • 保険の不更新とクレディ・スイスのファンド凍結で資金が枯渇し2021年3月に経営破綻。英キャメロン元首相のロビー活動も発覚した
  • この事件は金融商品の複雑さが透明性を犠牲にするリスクを示し、クレディ・スイスの救済合併にもつながった

よくある質問

Q
サプライチェーンファイナンス自体は違法ですか?
A

いいえ、サプライチェーンファイナンス自体は正当な金融手法です。問題はグリーンシルが実在する売掛金ではなく、将来の不確実な売上予測に基づく融資を行い、それを安全な投資商品として販売した点にあります。

Q
ソフトバンクはどのくらい損失を出しましたか?
A

ソフトバンク・ビジョン・ファンドはグリーンシルに約15億ドル(約1600億円)を出資していました。ソフトバンクは損失額を公式には限定的としていますが、クレディ・スイスからは4.4億ドルの返還請求訴訟を受けており、最終的な損失額は確定していません。

Q
東京海上はなぜ保険更新を拒否したのですか?
A

保険の前提となる売掛債権が架空計上されていた疑惑が浮上したためです。東京海上のオーストラリア子会社が2020年7月に更新拒否を通知し、グリーンシルは裁判所に異議を申し立てましたが却下されました。この保険の喪失がクレディ・スイスのファンド凍結の引き金となり、グリーンシルの破綻に直結しています。なお東京海上ホールディングスは、自社への影響は限定的であると発表しており、報道で取り沙汰された100億ドルという数字はあくまで保険対象となる想定売掛債権の総額であり、保険金支払い想定額ではないとしています。

【出典】参考URL

  • 日本経済新聞:グリーンシル破綻の速報とSBG出資の経緯
  • Sustainable Japan:サプライチェーンファイナンスと将来売掛金の仕組み解説
  • 取引信用保険ラボ:東京海上の保険不更新と架空債権疑惑
  • Bloomberg:ソフトバンクとグリーンシルの関係・ビジョンファンドの出資経緯
  • SWI swissinfo.ch:クレディ・スイスによるソフトバンク提訴

コメント

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