- フランス第2位の銀行ソシエテ・ジェネラルのトレーダー、ジェローム・ケルヴィエルが欧州株価指数先物で500億ユーロ(約7.8兆円)もの巨大ポジションを積み上げた
- 架空のヘッジ取引でポジションを隠蔽。2008年1月に発覚し、ポジション解消の過程で損失が49億ユーロ(約7600億円)に拡大した
- ケルヴィエルは禁固3年の実刑判決。一方で2016年にはフランスの労働裁判所が解雇は不当と認定し、銀行側の監視責任も指摘された
2008年1月24日、フランスの大手銀行ソシエテ・ジェネラルが衝撃的な発表を行いました。1人のトレーダーの不正取引で49億ユーロ(約7600億円)もの損失が発生したというのです。サブプライム問題で世界中の銀行が巨額損失を計上していたまさにその時期に、それとは全く別の原因で史上最大規模の不正トレーダー損失が発覚しました。
問題のトレーダーはジェローム・ケルヴィエル、当時31歳。年収10万ユーロ(約1600万円)の中堅社員が、銀行の自己資本に匹敵する規模のポジションを隠し持っていた事実は、金融業界のリスク管理のあり方を根本から問い直す契機となりました。
ケルヴィエルの経歴と手口
ケルヴィエルは鉄工員と美容師の両親のもとに生まれ、リヨン第2大学でマネジメントを学びました。フランスのエリート養成機関であるグランゼコールの出身ではなく、2000年にソシエテ・ジェネラルに入社後、最初はミドルオフィス(管理部門)で勤務しています。
2005年にトレーダーに転身し、欧州の株価指数で裁定取引を担当。しかしケルヴィエルは裁定取引の枠を超えて、一方向に巨額のポジションを積み上げていきました。その手口は、ネットポジションだけをチェックしてグロスの取引高を見ないソシエテの慣行を利用し、架空のヘッジ取引を作成してポジションを隠蔽するというものでした。ミドルオフィス時代に得た管理システムの知識が、不正を可能にしたとされています。
発覚と損失の拡大
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2005年ケルヴィエルがトレーダーに転身ミドルオフィスからトレーダーへ異動。欧州株価指数の裁定取引を担当し、次第に権限を超えたポジションを積み上げ始めた。
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2007年末ポジションが500億ユーロに膨張DAX指数やユーロ・ストックス50指数の先物で巨大ポジションを構築。名目取引額は約500億ユーロ(約7.8兆円)に達していた。
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2008年1月18日不正ポジションが発覚ソシエテ・ジェネラルがケルヴィエルの隠されたポジションを発見。この時点で損失は約15億ユーロだった。
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2008年1月21〜23日ポジション解消で損失が49億ユーロに拡大銀行が全ポジションの売却を決断。しかし世界的な株安と重なり、売却過程で損失が15億ユーロから49億ユーロに拡大した。CAC40は同日6.83%下落し、米同時テロ以来の大暴落を記録。
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2010年10月ケルヴィエルに禁固3年の判決パリ軽罪裁判所が禁固3年の実刑判決と、損失額49億ユーロ全額の賠償を命じた。ケルヴィエルは一貫して銀行側も不正を把握していたと主張。
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2016年6月労働裁判所が不当解雇を認定フランスの労働裁判所がケルヴィエルの解雇は不当と認定し、銀行に45万ユーロの賠償を命じた。銀行側は解雇以前から疑わしい取引を把握していたと指摘された。

損失の大半はポジション解消の過程で発生しました。発覚時点の15億ユーロが、たった3日間の売却で49億ユーロに膨れ上がった。世界的株安の最悪のタイミングで全ポジションを投げ売りした銀行側の判断も、損失を拡大させた一因です。
現代に通じる教訓
ソシエテ・ジェネラル事件の最大の教訓は、リスク管理部門出身者がトレーダーに転身した場合のリスクです。
ケルヴィエルはミドルオフィスでリスク管理システムの仕組みを熟知していたため、どこにチェックの穴があるかを知り尽くしていました。また、ネットポジションだけを監視してグロスの取引高を見ないという銀行の慣行が不正を可能にしました。利益が出ている間は上司も見て見ぬふりをしていたとケルヴィエル自身は主張しており、労働裁判所もこの点を認めています。ベアリングス銀行(1995年)やAIB(2002年)と同様、不正トレーダー事件は繰り返されています。根本的な問題は個人の犯罪ではなく、それを許す組織の統制不備にあります。

ベアリングスのリーソンは懲役6年半、ケルヴィエルは禁固3年。損失額はケルヴィエルのほうが5倍以上大きいのに刑は軽い。これはケルヴィエルが個人的な利益を得ていなかったことが考慮された結果です。しかし49億ユーロの賠償を命じられており、これは事実上一生かけても払えない金額です。
まとめ
- ケルヴィエルは架空のヘッジ取引で500億ユーロのポジションを隠蔽。発覚後のポジション解消で損失は49億ユーロに拡大した
- ミドルオフィス出身の知識でリスク管理の穴を突いた。ネットポジションだけの監視という銀行の慣行が不正を許した
- 禁固3年の実刑だが不当解雇も認定。銀行側の監視責任も問われ、不正トレーダー問題は個人ではなく組織の問題であることが示された
よくある質問
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Qケルヴィエルは個人的に利益を得ていたのですか?
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A
ケルヴィエルは個人口座に不正な資金を移していた形跡はなく、年収も10万ユーロ未満でした。動機はボーナスの増額と社内での存在感を示すことだったとされています。フランスの労働裁判所も、銀行側が利益が出ている間は見て見ぬふりをしていたと認定しました。
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Qソシエテ・ジェネラルは破綻しなかったのですか?
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A
フランス政府が他行による敵対的買収を牽制し、モルガン・スタンレーとJPモルガンを引受先とする55億ユーロの増資を行うことで経営を維持しました。フィヨン首相が緊急声明を出すなど、国家レベルの対応がなされました。
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Qベアリングス銀行事件との違いは何ですか?
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A
ベアリングス事件(1995年)ではニック・リーソンがフロントとバックを兼務し、損失を隠す架空口座を使いました。ケルヴィエルは架空のヘッジ取引を使ってネットポジションをゼロに見せかける手法でした。損失額はケルヴィエルのほうが5倍以上大きいですが、ベアリングスは破綻し、ソシエテ・ジェネラルは存続しました。
【出典】参考URL
- ソシエテ・ジェネラル – Wikipedia:損失額49億ユーロ、55億ユーロ増資、ブトン会長辞任
- PARIS FP:事件の詳細経緯、ポジション解消過程、CAC40の暴落
- 日本経済新聞:禁固3年の判決、49億ユーロの賠償命令
- AFP:不当解雇認定、45万ユーロの賠償命令


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