- 不動産業者が売主から安く仕入れた物件を、仕入れ値を買主に伏せたまま高値で転売する取引手法だ
- 登記を売主から買主に直接移すことで業者は登録免許税や不動産取得税を節約し、仲介手数料の上限規制も受けずに利益を確保する
- 民法537条に基づく合法な契約だが、買主が相場を知らなければ2〜3割以上の高値掴みになるリスクがあり、自分で相場を調べることが必須の防衛策になる
この4コマが描いているのは、三為取引における情報の非対称性がもたらす典型的な被害パターンです。コマ①で営業マンが提示した自己資金ゼロ・ローン全額手配という甘い条件は、買主自身が価格の妥当性を調べる動機を巧みに奪い取っています。
三為取引では業者が売主の立場で売買するため、不動産仲介のような手数料の法定上限(売買価格×3%+6万円)が適用されません。仕入れ値と販売価格の差額がすべて業者の利益となり、その差額が1000万円であっても、構造上は合法なのです。コマ②で主人公が愕然とするレインズの成約事例こそ、本来なら購入前に確認すべきだった情報にほかなりません。
コマ③の弁護士の指摘が示すとおり、売買契約書の特約事項に第三者のためにする契約と記載されていれば、それが三為取引である証拠になります。しかし多くの買主は、契約書のコピーを事前に入手せず、当日その場で署名してしまうのが実情でしょう。2018年のかぼちゃの馬車事件では、この構造がスルガ銀行の不正融資と結びつき、700人以上のサラリーマン投資家が返済不能に陥りました。
コマ④の後悔を防ぐ唯一の方法は、購入前に自分で相場を調べることです。レインズマーケットインフォメーションや国土交通省の不動産取引価格情報検索を使えば、周辺の成約事例は誰でも無料で確認できます。業者任せにせず、自分の目で数字を確かめる習慣が、数百万円単位の高値掴みから身を守る最大の防衛策になるでしょう。
【深掘り】これだけは知っておけ
三為取引(さんためとりひき)とは、民法537条に定められた第三者のためにする契約を不動産売買に応用した手法です。売主をA、不動産業者をB、最終的な買主をCとすると、A→B→Cと物件が渡る流れの中で、所有権はA→Cに直接移転させます。Bへの所有権移転登記を省略できるため、Bは登録免許税(不動産評価額×2%)や不動産取得税(同×4%)を負担せずに済むのです。
この仕組み自体は2005年の不動産登記法改正後に生まれた合法的な手法であり、国土交通省や法務省からも通達が出されています。一般の不動産業者が利用するケースも少なくありません。問題が生じるのは、三為業者が仕入れ価格を買主に一切開示しないという構造的な特徴を悪用する場合です。
2018年に社会問題となった女性用シェアハウスかぼちゃの馬車事件は、三為取引の危険性を世に知らしめた代表的な事例でしょう。運営会社のスマートデイズは三為スキームを使って物件を本来の価値より大幅に高い価格で販売し、サラリーマン投資家に購入させていました。審査基準が緩いと評判だったスルガ銀行と結びつき、投資家の年収を偽装してまでローンを通すという不正も横行。最終的にスマートデイズは経営破綻し、多くの投資家が返済不能のローンを抱える事態に陥りました。
三為取引そのものを不動産投資詐欺と混同すべきではありませんが、買主が相場を知らなければ業者にとって都合のいい価格が通ってしまう構造は認識しておく必要があります。地面師が登記制度の隙を突くように、三為業者も制度の設計上の死角を利用しているのです。
三為取引と通常の不動産仲介の違い
| 比較項目 | 通常の仲介取引 | 三為取引 |
|---|---|---|
| 業者の立場 | 売主と買主をつなぐ仲介者 | 自ら売主として売買する当事者 |
| 手数料・利益の上限 | 売買価格×3%+6万円(法定上限あり) | 上限なし(仕入れ値と販売価格の差額が利益) |
| 仕入れ価格の開示 | 売主の希望売却価格が買主にも分かる | 買主には一切開示されない |
| 登記の流れ | 売主→買主に直接移転 | 売主→買主に直接移転(業者は登記を経由しない) |
| 業者の税負担 | 仲介のため発生しない | 登録免許税・不動産取得税が免除される |
| 瑕疵担保責任 | 売主(個人)が負うが、免責特約がつくことが多い | 宅建業者が売主となるため、引渡しから2年以上の責任を負う |
三為取引で買主が高値掴みを防ぐチェックリスト
| チェック項目 | 確認方法 |
|---|---|
| 売買契約書の特約事項に第三者のためにする契約の記載がないか | 契約日より前に売買契約書のコピーを入手して確認する |
| 売主が不動産業者であり、かつ登記上の名義が別人(元の売主)になっていないか | 法務局で登記簿謄本を取得して名義人を確認する |
| 物件の相場価格を自分で調べたか | レインズマーケットインフォメーション・不動産取引価格情報検索で周辺の成約事例を確認する |
| 同じ物件が他のサイトで異なる価格で掲載されていないか | 複数の不動産ポータルサイトで物件名・住所を検索する |
| 融資審査に必要な書類を業者側が作成・代行しようとしていないか | 源泉徴収票や確定申告書の原本を自分で金融機関に提出する |
かぼちゃの馬車事件に学ぶ三為取引の危険パターン
2018年のかぼちゃの馬車事件は、三為取引が詐欺的に悪用された最も有名な事例です。この事件から読み取れる危険シグナルを整理します。
| 危険シグナル | 事件での実態 |
|---|---|
| 相場より明らかに高い物件価格 | 本来の価値より大幅に上乗せした価格で販売されていた |
| 家賃保証(サブリース)で安心感を演出 | 保証された家賃は実際の入居率と乖離しており自転車操業だった |
| 特定の金融機関と密接な関係 | スルガ銀行と結びつき、投資家の年収や預金を偽装してまでローン審査を通していた |
| フルローン・オーバーローンを売りにする | 物件価格を水増しすることでオーバーローンを実現し、自己資金ゼロで購入可能と宣伝していた |
典型的なフレーズ・文脈

自己資金ゼロで始められます。ローンは当社が提携先の銀行に全部通しますので、書類の準備も一切不要ですよ。
投資用ワンルームマンションの営業場面で、三為業者が初心者の会社員に対して使うセールストーク。自己資金ゼロとローン手配の代行を前面に出すことで、買主自身が価格の妥当性を調べる動機を奪います。

金融庁はスルガ銀行に対し、一部業務の停止命令を出しました。審査書類の改ざんを組織的に見過ごしていた実態が明らかとなり、被害者は700人を超えると見られています。
2018年、かぼちゃの馬車事件を受けた金融庁の行政処分を報じるニュース番組。三為取引と不正融資が結びついたことで被害が拡大した構造が伝えられています。

三為取引自体は違法ではありません。ただし、買主が売買契約書の特約事項を確認せず署名してしまうと、そもそも三為取引であることに気づかないまま高値掴みすることになります。契約書は必ず事前にコピーをもらい、専門家に確認してもらってください。
不動産取引に詳しい弁護士が、投資用マンションの購入を検討している相談者に対して、契約前の確認事項についてアドバイスしている場面。予防の切り口から三為取引のリスクを解説しています。
三為取引の歴史
三為取引は不動産登記法の改正を契機に生まれた手法であり、制度の変遷と不正事件の発覚が交互に繰り返されてきました。
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 2005年以前 | 不動産の転売時にA→B→Cの登記をBを省略してA→Cとする中間省略登記が広く行われていた |
| 2005年 | 不動産登記法の改正により、従来の中間省略登記が事実上禁止される |
| 2007年 | 宅建業法施行規則の改正(15条の6第4号新設)により、第三者のためにする契約を用いた新・中間省略登記が宅建業者に認められる |
| 2018年 | 女性用シェアハウス運営のスマートデイズ(かぼちゃの馬車)が経営破綻。三為スキームと不正融資の結びつきが社会問題化した |
| 2018年 | 金融庁がスルガ銀行に対して一部業務停止命令。審査書類の改ざんを組織的に見過ごしていた実態が明らかになった |
| 現在 | 三為取引自体は合法的な手法として存続しているが、金融機関の融資審査は厳格化。買主への情報開示の重要性が改めて認識されている |
この用語と一緒に知っておきたい用語
| 用語 | この記事との関連 |
|---|---|
| 地面師 | 不動産の登記制度の隙を突く手口という点で三為取引の悪用と構造的に共通する |
| 二重譲渡 | 不動産の所有権移転と登記のタイミングのずれを利用する点で、三為取引の中間省略登記と関連する |
| 投資詐欺 | 三為取引が不正融資と結びつくと投資詐欺と同等の被害を生むことがかぼちゃの馬車事件で証明された |
| 損害賠償請求 | 三為業者による高値掴みや虚偽説明が発覚した場合に買主が利用できる法的手段 |
| 原野商法 | 価値の低い不動産を高値で売りつけるという手口の構造が、三為取引の悪用パターンと共通する |
困ったときの相談窓口
三為取引に関するトラブルや、不動産投資で不当な価格で購入させられた疑いがある場合は、以下の窓口に相談できます。
| 窓口名 | 電話番号 | 受付時間 | 対応内容 |
|---|---|---|---|
| 消費者ホットライン | 188 | 地域の消費生活センターの受付時間に準ずる | 不動産取引に関する契約トラブル全般の相談 |
| 金融サービス利用者相談室 | 0570-016811 | 平日 10:00〜17:00 | 不動産投資ローンに関するトラブル・不正融資の情報提供 |
| 法テラス(日本司法支援センター) | 0570-078374 | 平日 9:00〜21:00 / 土曜 9:00〜17:00 | 弁護士費用の立替制度を含む法的トラブル全般の相談 |
【まとめ】3つのポイント
- 合法だが情報格差が武器になる構造:三為取引は民法537条に基づく正当な契約形態ですが、仕入れ値が買主に開示されない構造を悪用すれば、相場からかけ離れた高値掴みを引き起こせます
- 仲介手数料の上限規制が効かない:業者は売主の立場で売買するため、仲介手数料の法定上限(3%+6万円)の適用を受けず、利幅に制限がありません
- 自分で相場を調べることが最大の防御:レインズマーケットインフォメーションや国土交通省の取引価格情報で周辺の成約事例を確認し、契約書の特約事項を事前にチェックすることが高値掴みを防ぐ唯一の手段です
よくある質問
-
Q三為取引は違法なのですか?
-
A
違法ではありません。民法537条に定められた第三者のためにする契約に基づく合法的な取引手法であり、国土交通省や法務省からも通達が出されています。一般の不動産会社が利用するケースも珍しくありません。問題になるのは、この仕組みを悪用して買主に相場からかけ離れた高値で物件を購入させたり、融資審査の書類を改ざんするといった不正行為が伴う場合です。
-
Q購入しようとしている物件が三為取引かどうか、どうすれば分かりますか?
-
A
売買契約書の特約事項を確認するのが最も確実な方法です。三為取引の場合、第三者のためにする契約である旨が特約に記載されています。また、法務局で登記簿謄本を取得し、売主として名乗っている業者と登記上の名義人が異なっていれば、三為取引の可能性が高いでしょう。契約の締結日より前に契約書のコピーを入手して確認することをお勧めします。
-
Q三為取引で高値掴みをしてしまった場合、返金は可能ですか?
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A
単に相場より高かったというだけでは、返金を求めるのは難しいのが実情です。三為取引は合法な契約形態であり、価格設定も当事者間の合意に基づくためです。ただし、重要事項の説明に虚偽があった場合や、融資審査書類の改ざんが業者主導で行われていた場合は、損害賠償請求や契約の取消しが認められる可能性があります。まずは弁護士に相談し、契約書や重要事項説明書の内容を精査してもらうことが第一歩になるでしょう。
-
Q三為取引と不動産仲介の違いは何ですか?
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A
最大の違いは業者の立場と報酬構造にあります。仲介では業者は売主と買主をつなぐ媒介者であり、報酬は法律で上限が定められた仲介手数料(売買価格×3%+6万円)に限られます。一方、三為取引では業者自身が売主として売買契約を結ぶため、仕入れ値と販売価格の差額がすべて利益となり、上限の制限を受けません。また、仲介では売主の希望価格が買主にも分かるのに対し、三為取引では業者の仕入れ値が買主に開示されないという情報の非対称性があります。
【出典】参考URL
https://www.sbi-efinance.co.jp/contents/contracts_made_for_third_parties/ :三為契約の定義・中間省略登記との違い・法的根拠
https://www.ieuri.com/bible/sell-knowledge/19779/ :新・中間省略登記の仕組み・登録免許税と不動産取得税の計算例
https://www.senri-c.com/archives/blog/three-way-agreement :三為業者の見分け方・契約書特約事項の確認ポイント
https://manabu.orixbank.co.jp/archives/452 :ワンルーム投資における三為契約の注意点・利益上限なしの構造
https://lab.iyell.jp/knowledge/realestate/third-person/ :かぼちゃの馬車事件(スマートデイズ)の経緯と三為スキームの悪用
https://sekiguchi-law.com/post-2998 :三為契約の法的構造・民法537条・国土交通省通達
https://www.to-chu.co.jp/column/16923/ :三為業者の見分け方・登記名義人の確認方法
https://sumaity.com/realestate_investment/press/911/ :三為業者の仕入れ・転売の実態・高値掴みのリスク


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