- 合言葉や録音機などの既存対策は動転した状態では機能しないという致命的な弱点がある
- 詐欺師が使う最大の武器は緊急性による冷静の剥奪であり、電話が来る前に対策を設計することが本質だ
- ビデオ通話ルール+家族経由ルールを組み合わせた「家族プロトコル」で、人間の判断に頼らない防衛線を作れる

「うちの親は大丈夫」と思っている方ほど、一度この記事を読んでほしいと思います。オレオレ詐欺の被害者になる人は、知識がないわけでも、判断力が低いわけでもありません。詐欺師はプロとして、人を動転させる技術を持っているのです。
この記事では、既存の対策がなぜ機能しないかを整理した上で、電話が来る前に家族で設計しておく「家族プロトコル」という考え方と、その具体的な作り方を解説します。
オレオレ詐欺の被害、実態はどれほど深刻か
オレオレ詐欺を含む特殊詐欺の被害は、2024年に過去最悪を更新しました。警察庁の確定値によると、2024年の認知件数は21,043件、被害額は717億6,000万円に達しています。1日あたりの被害額に換算すると、約1億9,600万円です。
被害者の年齢層を見ると、65歳以上の高齢者が全体の65.4%を占めています。さらにオレオレ詐欺に絞れば、かつては被害者の9割以上が高齢者という時期もありました。詐欺師が高齢者を狙い続けてきたのには、明確な理由があります。
そしてもう一つ注目すべきデータがあります。特殊詐欺の入口として使われたツールのうち、電話が79.0%を占めており、オレオレ型詐欺に限ると電話が99%を超えています。つまり、電話という入口さえ適切に管理できれば、被害のほとんどは防げる計算になります。
既存の対策はなぜ「動転したら使えない」のか
既存の詐欺対策が機能しない最大の理由は、冷静な状態を前提に設計されているからです。代表的な対策を見ていきましょう。
合言葉・一度切るルール・録音機の限界
警察や自治体が推奨する対策の多くは、家族間の合言葉、電話を一度切って折り返すルール、自動通話録音機の設置などです。どれも理にかなっています。しかし、これらには共通した前提があります。それは、受け手が「今これは詐欺かもしれない」と気づいた状態で動くことです。
実際の詐欺電話はそうなりません。「息子が事故を起こして今すぐ示談金が必要」「警察官ですが、あなたの口座が犯罪に使われています」という内容で、話し始めた瞬間から受け手の頭は混乱します。合言葉を聞こうと思う余裕は生まれません。

録音機が鳴っても詐欺師は止まりません。彼らは「録音されても構わない」という前提でかけてきます。録音機は証拠保全には役立ちますが、被害そのものを防ぐ力は限定的です。
詐欺師が使う「緊急性」というOS
詐欺師の手口を構造で見ると、ほぼ全てに共通する設計思想があります。それが緊急性による冷静の剥奪です。「今すぐ」「今日中に」「急がないと手遅れになる」という言葉を連発することで、受け手の思考を止めます。
これは詐欺の手口というよりも、詐欺そのものを動かすOSと言えます。このOSが起動している状態では、どれだけ知識を持っていても正常な判断は難しくなります。つまり対策の本質は、緊急性を武器にさせない仕組みを、電話が来る前に作ることです。
「家族プロトコル」という考え方
家族プロトコルとは、緊急の電話がかかってきたとき、親が一人で判断しなくてもよい仕組みを家族で事前に設計しておくことです。人間の判断力に頼らず、ルールそのものが防衛線になる状態を目指します。
柱は2つです。①物理的な仕組みで入口を絞る、②家族間のコミュニケーション構造を変える。この両方を組み合わせることで、詐欺師が付け入る隙を根本から減らせます。
ルール①:ビデオ通話以外は応じない
最も効果的な物理的仕組みは、子どもや孫からの緊急連絡はLINEビデオ通話のみで対応するというルールです。顔が見えれば偽物と即座にわかります。そして詐欺師は本人ではないため、ビデオ通話に応じることができません。
ここで必ず出てくる反論が「今は緊急で画面が出せない」という言い訳です。事故現場にいる、スマホが壊れた、警察に囲まれているなど、詐欺師は様々な理由を用意してきます。この抜け道を封じるには、「ビデオ通話できない緊急事態は存在しない」というルールを家族全員に事前にインストールすることが必要です。
ルール②:お金の話は必ず第三者を経由する
もう一つの柱は、お金に関わる話は、必ず別の家族を一人経由してから動くという構造です。本人から直接電話が来ても、その場では何もしません。必ず別の家族に電話して確認します。
この仕組みが有効な理由は、詐欺師が家族全員を同時に騙すことが極めて難しいからです。親に電話している詐欺師が、その親の子ども全員に同時に偽の情報を届けることはできません。複数人の目を通すだけで、詐欺のシナリオは崩れます。
家族構成によっては「経由する人が一人しかいない」という場合もあります。そのときは、近くに住む兄弟・姉妹、信頼できる近隣の人などを経由先に加えておくことも選択肢になります。
家族プロトコルを「決める」場を作る
ルールを決めるだけでなく、それを家族全員が理解・合意していることが重要です。年に一度、お盆や正月など家族が集まる機会に、詐欺対策の話題を10分だけ取り上げることをお勧めします。
その際に確認しておきたいのは次の3点です。ビデオ通話ルールの存在と操作の確認、お金の話が出たときの経由先の確認、そして「どんなに緊急でもこのルール通りに動く」という合意の確認です。
| ルール | 詐欺師への効果 | 準備すること |
|---|---|---|
| ビデオ通話のみ対応 | 顔出しできない詐欺師は詰む | LINEの設定・通話練習 |
| 家族経由ルール | 複数人を同時に騙せない | 経由先の家族を決める |
| 緊急でも動かない合意 | 緊急性という武器が無効化される | 年1回の家族確認の場を作る |
まとめ:対策は電話が来る前に完成させる
- 既存の詐欺対策は動転した状態では使えないという前提で、仕組みを再設計する必要がある
- ビデオ通話ルール+家族経由ルールを組み合わせた家族プロトコルで、人間の判断に依存しない防衛線を作る
- まず今日、親のスマホでLINEビデオ通話を一度試すことが最初の一歩になる
対策の全ては、電話が来る前に終わっていなければなりません。詐欺師が動き始めてから考えても、すでに相手のペースに乗せられています。家族プロトコルの設計は、難しい手続きは一切不要です。家族で話し合い、LINEビデオ通話を一度練習する。それだけで、ほとんどのオレオレ詐欺は防げます。
まずは今週末、親に電話してビデオ通話を試してみてください。その10分が、最大の詐欺対策になります。
よくある質問
- Q親がスマホを持っていない場合、ビデオ通話ルールは使えませんか?
- A
スマホを持っていない場合でも、家族経由ルールだけでも大きな効果があります。固定電話しかない環境なら、まず「お金の話が出たら必ず子どもに電話する」というルール一本に絞ることが現実的です。スマホの導入を検討する際は、操作がシンプルならくらくスマートフォン系のモデルにLINEを設定する方法がお勧めです。
- Q本当に緊急事態のとき、ビデオ通話ルールで対応が遅れませんか?
- A
本物の緊急事態では、本人は必ずビデオ通話に応じられます。事故、病気、トラブル、どんな状況でもスマホさえあればビデオ通話は可能です。「ビデオ通話できない緊急事態」を演出してくるのは詐欺師だけです。このロジックを家族全員が理解していれば、本物の緊急時に対応が遅れることはありません。
- Q自動通話録音機や迷惑電話フィルターとの併用は意味がありますか?
- A
併用することで防衛層が厚くなるため、意味はあります。自動通話録音機は詐欺師へのけん制として機能し、迷惑電話フィルターはそもそも電話が親に届かないようにする入口の管理です。ただし、これらはあくまで補助的なツールであり、動転した人間の判断を助けるものではありません。家族プロトコルを土台にした上で、追加の層として使うのが最も効果的な組み合わせです。
- Q高齢の親にルールを説明しても、なかなか理解してもらえません。どうすれば伝わりますか?
- A
理屈ではなく、実体験として腑に落とすことが最短です。警察庁の特殊詐欺対策ページでは実際の詐欺電話の音声データが公開されており、親と一緒に聞くことで「こんな電話が本当にかかってくる」という実感を持ってもらいやすくなります。その上で「だからこのルールが必要なんだ」という順番で話すと、理解が格段に深まります。
出典・参考リンク
- 警察庁「令和6年における特殊詐欺の認知・検挙状況等について(確定値)」
https://www.npa.go.jp/bureau/criminal/souni/tokusyusagi/hurikomesagi_toukei2024.pdf - 消費者庁「特殊詐欺による高齢者の被害について」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_research/white_paper/2023/white_paper_column_01.html - 警察庁 特殊詐欺対策特設ページ(実際の詐欺音声データ公開)
https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/sos47/



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