- 日雇い派遣最大手のグッドウィルは登録者291万人・派遣先7万社を擁しながら、二重派遣と禁止業務への派遣を恒常的に行っていた
- 2008年1月に東京労働局から全事業所への事業停止命令(最長4カ月)を受け、同年6月に職業安定法違反幇助で書類送検・罰金刑が確定
- 厚生労働省が派遣事業許可の取消方針を固めたことで、グッドウィルは2008年7月31日に事業を廃止。ワーキングプアの温床として社会問題化した
登録者291万人、1日あたり約3万人を派遣し、派遣先は7万社――。日雇い派遣業界の最大手グッドウィルは、日本の非正規雇用を支える巨大な仕組みでした。
しかしその裏では、法律で禁止されている港湾運送業務への派遣や、派遣先を経由してさらに別の企業へ送り込む二重派遣が恒常的に行われていたのです。2008年、グッドウィルは事業停止命令を受け、最終的に廃業に追い込まれました。
この記事では、グッドウィル事件の経緯を整理し、二重派遣がなぜ違法なのか、そして派遣労働者がどのように搾取されていたのかを解説していきます。
グッドウィルとは?日雇い派遣の巨人
グッドウィルとは、日雇い派遣(スポット派遣)を主力事業とする人材派遣会社で、全国に約800の支店を展開していました。軽作業、引越し、倉庫作業、イベント設営など、日単位の短期労働を中心に事業を拡大しています。
2007年11月末時点での登録者数は291万人に上り、1日あたり約3万人を7万社に派遣するという巨大な規模を誇っていました。グッドウィル・グループ(後のラディアホールディングス)の傘下にあり、同グループには介護事業のコムスン(別の不祥事で廃業)も含まれていました。
違法行為の実態:二重派遣と禁止業務への派遣
グッドウィルが処分を受けた違法行為は、主に二重派遣と禁止業務(港湾運送・建設)への派遣の2つです。
二重派遣とは何か
二重派遣とは、派遣会社から受け入れた派遣労働者を、派遣先企業がさらに別の企業へ送り込むことです。職業安定法第44条で禁止されている労働者供給事業に該当し、労働基準法第6条の中間搾取の排除にも抵触します。
二重派遣が行われると、複数の企業がマージンを抜くため労働者の賃金が不当に低くなります。また、雇用責任の所在が不明確になり、就業中の事故やケガが発生した際に企業同士が責任を押し付け合うリスクがあります。
グッドウィルでの具体的な違法派遣
グッドウィルの違法派遣は全国規模で恒常的に行われていました。2007年7月には、偽装業務の状態で東京の港湾地区に派遣された男性が、労働者派遣法で禁止されている港湾での荷物の積み下ろし作業に従事していたことが発覚しています。さらに、その現場には派遣元責任者すら配置されていませんでした。
二重派遣については、グッドウィルが港湾関連会社「東和リース」に対して2006年から2007年にかけて27回にわたり労働者を二重派遣していたことが確認されています。また、2005年6月には禁止されている建設業務への派遣で東京労働局から事業改善命令を受けた前歴もありました。

グッドウィルの問題は、違法派遣だけではありません。日雇い派遣そのものが、派遣会社にマージンを抜かれた低賃金で、社会保険もなく、明日の仕事すら保証されないという「ワーキングプア」の温床になっていました。違法派遣はその構造的搾取の最も醜い部分が表面化したものです。
処分から廃業まで
グッドウィルは一連の違法行為により、派遣業大手としては過去最長の事業停止命令を受け、最終的に事業廃止に追い込まれました。
- 2005年6月建設業務への違法派遣で事業改善命令禁止されている建設業務への派遣が発覚し、東京労働局から事業改善命令を受ける。しかし、その後も違法派遣は継続された。
- 2007年7月港湾運送業務への違法派遣が発覚東京の港湾地区で派遣労働者が禁止業務に従事していたことが判明。派遣元責任者も不在だった。厚生労働省の実態調査で、各地の支店で違法派遣が恒常的に行われていたことが明らかに。
- 2008年1月11日全事業所に事業停止命令東京労働局がグッドウィルの全事業所を対象に事業停止命令と事業改善命令を発出。67事業所は4カ月間、その他の事業所は2カ月間の停止。派遣業大手への処分としては過去最長。
- 2008年6月職業安定法違反幇助で書類送検・罰金刑警視庁がグッドウィルと従業員3名を職業安定法違反幇助で書類送検。6月24日に略式命令が発せられ罰金刑が確定。同日、厚生労働省がグッドウィルの派遣事業許可を取り消す方針を固めた。
- 2008年7月31日事業廃止厚生労働省による派遣事業許可の取消しを前に、グッドウィルは有料職業紹介事業および一般労働者派遣事業を廃止。日雇い派遣業界最大手が消滅した。
現代に通じる教訓:派遣労働者が自分を守るために
グッドウィル事件の教訓は、派遣労働者自身が自分の就業形態が合法かどうかを確認する意識を持つことの重要性です。
二重派遣を見分ける最も重要なポイントは「誰から指揮命令を受けているか」です。派遣契約に記載された派遣先企業の担当者ではなく、別の企業の人間から業務指示を受けている場合、それは二重派遣の可能性があります。
グッドウィル事件を受けて、2012年の労働者派遣法改正では日雇い派遣(30日以内の派遣)が原則禁止されました。しかし、偽装請負や実質的な二重派遣は業界の複雑な取引構造の中で今も発生し得るため、働く側が自分の権利を知っておくことが最大の防御策となります。

もし派遣先で「今日は別の現場に行ってくれ」と言われた場合、それは二重派遣の可能性があります。派遣元に確認せず指示に従うと、労災が発生した際に自分が不利益を被るリスクがあります。おかしいと感じたら、まず派遣元の担当者に連絡してください。
まとめ
- 日雇い派遣最大手のグッドウィルは二重派遣と禁止業務への違法派遣を恒常的に行い、2008年に全事業所の事業停止命令を受けた
- 職業安定法違反幇助で罰金刑が確定し、2008年7月31日に事業廃止。登録者291万人を抱えた派遣業界の巨人が消滅した
- 派遣で働く際は指揮命令者が誰かを常に意識し、契約と異なる現場や業務を指示された場合は派遣元に必ず確認することが自衛策だ
よくある質問
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Q二重派遣の罰則はどのくらいですか?
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A
職業安定法違反として1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があります。また、労働基準法第6条の中間搾取の排除に抵触した場合は、1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金です。さらに厚生労働大臣による行政処分として事業停止命令や許可取消しもあり得ます。
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Qグッドウィル廃業後、登録していた派遣労働者はどうなりましたか?
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A
厚生労働省は廃業に伴う対策本部を設置し、全国のハローワークや労働基準監督署で再就職支援を実施しました。しかし、日雇い派遣労働者の多くは住居が不安定な状態にあり、雇用の確保だけでなく住居の確保も含めた支援が求められました。東京弁護士会も十分な支援策を求める会長声明を発表しています。
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Q日雇い派遣は現在も合法ですか?
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A
2012年の労働者派遣法改正により、30日以内の日雇い派遣は原則として禁止されました。ただし、60歳以上の高齢者、昼間学生、年収500万円以上の副業者、世帯年収500万円以上の主たる生計者でない者など、一定の例外は認められています。
【出典】参考URL
- ドリームゲート:二重派遣27回の詳細、職業安定法違反幇助での書類送検
- 東京弁護士会 会長声明:事業廃止の経緯、港湾運送業務への違法派遣の違法性評価、労働者支援策への提言
- ウィキニュース:登録者291万人、1日3万人派遣、派遣先7万社、800支店、処分内容(4カ月・2カ月の事業停止)
- しんぶん赤旗:全事業所への事業停止命令・改善命令、一次派遣先への処分、東和リースへの刑事告発


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