- フィッシング詐欺に必要なツールやインフラを提供するサービス
- 技術的な知識が少ない攻撃者でも高度なフィッシング攻撃が可能になる
- 既製のキットやテンプレートを利用し、短時間で大規模な攻撃を実行できる

もっとくわしく知りたい方は続きをどうぞ!
PhaaSをわかりやすく
PhaaSとは
- PhaaS(Phishing as a Service)とは、フィッシング詐欺に必要なツールやインフラを提供するサービス。これは、まるで詐欺を行うための道具一式をレンタルするようなものだ。攻撃者は、自ら複雑なシステムを構築することなく、用意されたツールを利用して簡単にフィッシング詐欺を始められる。
- 技術的な知識が少ない攻撃者でも高度なフィッシング攻撃が可能になる。従来、高度なフィッシング攻撃には専門的な知識やスキルが必要だったが、PhaaSの登場により、そうした障壁が大幅に下がった。これにより、サイバー犯罪に手を染める者の裾野が広がり、より多くの人々がフィッシング詐欺を実行するようになった。
- 既製のキットやテンプレートを利用し、短時間で大規模な攻撃を実行できる。PhaaSプロバイダーは、偽のウェブサイトのテンプレートやメールのひな形などを豊富に用意しており、攻撃者はこれらを活用することで、効率的に多数のターゲットに対して攻撃を展開できる。
PhaaSの主な目的は、技術的な専門知識を持たない人物でも、手軽にそして効果的にフィッシング詐欺を実行できるようにすることだ。これは、サイバー犯罪の民主化とも言える現象であり、以前は高度なスキルを持つ者しか行えなかった詐欺行為が、一般の犯罪者にも手の届くものになった。
基本的な概念は、熟練したハッカーや犯罪グループが、フィッシングに必要なツール一式を開発し、それを他の攻撃者が利用できるようにサービスとして提供するというものだ。このツールには、本物そっくりの偽のウェブサイトのテンプレート、騙しのメールを作成するためのひな形、盗んだデータを収集するための仕組みなどが含まれる。PhaaSプロバイダーは、これらのツールをまとめて「フィッシングキット」として提供する。
これにより、攻撃者は、フィッシング詐欺に必要なインフラを自ら構築したり、複雑なプログラミングを行ったりする必要がなくなる。彼らは、PhaaSプロバイダーが提供するサービスに料金を支払い、アカウントを作成するだけで、すぐにフィッシング攻撃を開始できる。これは、あたかもソフトウェアを利用するためにサブスクリプション契約を結ぶのと同じような感覚だ。
さらに、PhaaSプラットフォームは、多くの場合、攻撃が成功するためのサポートやアップデートも提供する。これには、技術的なトラブルシューティングのサポートだけでなく、最新のセキュリティ対策を回避するための情報や、新しいテンプレートの提供なども含まれる。これにより、攻撃者は常に最新の手法を利用して、より効果的に詐欺を行うことができる。
PhaaSの具体的な例
PhaaSは、例えるなら「詐欺師向けの道具レンタル」のようなものだ。魚釣りに例えるなら、熟練した漁師が作った高性能な釣り竿やルアーを、釣りの経験が少ない人でも借りて使えるようなイメージだ。これにより、誰でも簡単に魚を釣ることができるようになる。同様に、PhaaSを利用すれば、サイバー犯罪の経験が少ない者でも、高度なフィッシング詐欺を実行できる。
攻撃者は、オンラインの闇市場やハッカーフォーラムなどを通じて、PhaaSプロバイダーを見つけ、料金を支払うことで、すぐに使えるフィッシングキットを入手できる。以前は、これらのツールは高度な技術を持つハッカーが自ら開発する必要があったが、PhaaSの登場により、誰でも手軽に利用できるようになった。最近では、通常のインターネット上でもPhaaSの広告が見られるようになっている。
具体的な例として、攻撃者は有名なオンラインサービス(銀行、SNS、ECサイトなど)のログインページを模倣したテンプレートを選び、わずかなカスタマイズで本物そっくりの偽サイトを作成する。これらのテンプレートは、ロゴやデザインだけでなく、ウェブサイトの挙動まで忠実に再現されているため、被害者は容易に騙されてしまう。
その後、攻撃者は、作成した偽のログインページへのリンクを記載したメールを大量に送信する。これらのメールは、緊急性を煽ったり、お得な情報を提供したりするなど、受信者の心理を巧みに利用してクリックを促すように作られている。被害者がリンクをクリックして偽サイトにアクセスし、IDやパスワードなどの個人情報を入力すると、その情報は攻撃者に送信される。
最近では、より高度なPhaaSキットでは、二要素認証(2FA)を回避する機能を持つものも登場している。二要素認証は、IDとパスワードに加えて、別の認証要素(例えば、スマートフォンに送信されるワンタイムコード)を要求することでセキュリティを強化する仕組みだが、一部のPhaaSキットは、この認証プロセスを巧妙に迂回する技術を備えている。
PhaaSを使用する手順
- 1キットの入手
攻撃者は、まず、ダークウェブやオンラインフォーラムなどでPhaaSプロバイダーを探し出す 。プロバイダーが見つかると、攻撃者は利用料金を支払い、フィッシングに必要なツール一式が含まれたフィッシングキットを購入する。フィッシングキットの価格は、提供される機能やサポート体制によって異なり、比較的安価なものから高機能なものまで存在する 。
- 2キャンペーンの作成:
購入したキットには、通常、偽のウェブサイトのテンプレートや、ターゲットを騙すためのメールのひな形などが含まれている。攻撃者は、これらのテンプレートを基に、攻撃対象や目的に合わせてキャンペーンの内容を設定する。例えば、特定の銀行の顧客を狙う場合は、その銀行のロゴやデザインを模倣したテンプレートを選択し、メールの内容もその銀行からの連絡を装うようにカスタマイズする。
- 3ターゲットの選定とリストの準備
効果的なフィッシング攻撃を行うためには、適切なターゲットを選定し、その連絡先(主にメールアドレス)のリストを準備する必要がある。PhaaSプロバイダーによっては、ターゲットリストを提供したり、リストの作成を支援する機能を提供したりする場合もある。攻撃者は、これらの情報源を活用して、攻撃対象のリストを作成する。
- 4攻撃の実行
キャンペーンの準備が整ったら、攻撃者はPhaaSプラットフォームを通じて、作成したフィッシングメールをターゲットリストに送信する。高度なPhaaSプラットフォームでは、スパムフィルターを回避するための技術が組み込まれている場合もある。これにより、攻撃メールが被害者の受信トレイに届きやすくなり、攻撃の成功率を高めることができる。
- 5情報の収集
被害者がフィッシングメールに記載されたリンクをクリックすると、本物そっくりの偽のウェブサイトに誘導される。そこで、IDやパスワード、クレジットカード情報などの個人情報を入力してしまうと、そのデータはPhaaSプロバイダーのサーバーや、攻撃者が管理するサーバーに送信される。
- 6データの利用または販売
収集された個人情報は、攻撃者自身が不正アクセスや金銭詐取などの目的で利用したり、他の犯罪者に販売されたりする。盗まれた情報は、ダークウェブなどの闇市場で取引されることも多い。
- 7サポートとアップデート(PhaaSプロバイダーによる)
多くのPhaaSプロバイダーは、攻撃が成功するように、技術的なサポートを提供したり、新しいテンプレートやセキュリティ対策を回避するためのアップデートを提供したりする。これにより、攻撃者は常に最新の手法を利用して、より効果的に詐欺を行うことができる。
PhaaSによる事件
2025年初頭には、Tycoon2FA、EvilProxy、Sneaky2FAといった主要なPhaaSプラットフォームを利用した攻撃が世界中で急増した。これらのプラットフォームは、高度な機能を備えており、セキュリティ対策を回避する能力も高い。特にTycoon2FAは、2025年1月のPhaaS関連インシデントの89%を占めるほど、活発に利用されていた。
2024年には、ChangeHealthcareがフィッシング攻撃により1億人以上のユーザー情報が漏洩する被害に遭った。この攻撃は、医療業界に大きな混乱をもたらし、PhaaSが利用された可能性も指摘されている。
同じく2024年には、PepcoGroupが約1550万ユーロを失うフィッシング詐欺に遭った。この攻撃では、高度なAIツールが利用され、PhaaSキットと組み合わされた可能性も考えられている。
2020年に発見されたBulletProofLinkは、初期の主要なPhaaSプロバイダーであり、多くのフィッシング攻撃に関与していたとされる。Microsoftの調査によると、BulletProofLinkは現代のサイバー空間における多くのフィッシング攻撃の背後にいたという。
「SharkTank」の出演者であるBarbaraCorcoranが、アシスタントを装った詐欺により約40万ドルを騙し取られた事件も、PhaaSが利用された疑いがある事例として挙げられている。この事件は、著名人が被害に遭ったことで、PhaaSの脅威を広く知らしめることになった。
SniperDzというPhaaSプラットフォームは、主にSNSやオンラインサービスを標的としており、無料でサービスを提供している。これは、ユーザーの認証情報を収集して収益化している可能性がある。SniperDzは、顧客サポートのためにTelegramチャンネルを運営しており、多くの利用者がいることが確認されている。
MorphingMeerkatと呼ばれるPhaaSの攻撃者は、DNSoverHTTPS(DoH)とDNSMailExchange(MX)レコードを悪用して、動的にフィッシングキャンペーンを展開している。この攻撃者は、少なくとも5年前から活動しており、その高度な手法は共通のPhaaSプラットフォームの存在を示唆している。
PhaaSプラットフォームの例
プラットフォーム名 | 主な標的 | 主な特徴 |
---|---|---|
Tycoon 2FA | 各種組織用 | 高度な機能、暗号化、.ruドメイン利 |
EvilProxy | Microsoft 365、Google | リバースプロキシ、高度な模倣性 |
Sneaky 2FA | Microsoft 365 | AiTM攻撃、Telegram連携、2FAバイパス |
Sniper Dz | SNS、オンラインサービス | 無料提供、SaaSプラットフォーム悪用、無料 |
BulletProofLink | 不明 | 初期の主要PhaaSプロバイダー |
Morphing Meerkat | 各種ユーザー DoH/DNS | MX悪用、動的コンテンツ配信 |
PhaaSについてのよくある質問
- QPhaaSを利用すると誰でも簡単に詐欺ができる?
- A
PhaaSは技術的な知識が少ない人でもフィッシング詐欺を実行できるように設計されている。既製のツールやテンプレートが用意されているため、専門的なスキルがなくても、比較的簡単にフィッシング攻撃を開始できる。
- QPhaaSでどのような情報が盗まれるの?
- A
主にID、パスワード、クレジットカード情報などの個人情報が標的となる。これらの情報は、不正アクセス、金銭詐取、なりすましなどの犯罪に利用される可能性がある。
- QPhaaSによるフィッシング攻撃はどのように見分ければ良い?
- A
不審なメールアドレス、URLの不一致、緊急性を煽る文面、個人情報の要求などが特徴。また、文法的な誤りや不自然な表現が含まれている場合もある。
- QPhaaSの被害に遭わないためにはどうすれば良い?
- A
不審なメールやリンクはクリックしない、個人情報を安易に入力しない、二要素認証を設定する、セキュリティソフトを導入するなどの対策が有効。常に警戒心を持ち、安易に個人情報を入力しないことが重要だ。
- QPhaaSは違法?
- A
フィッシング詐欺は犯罪行為であり、それを支援するPhaaSも違法。PhaaSプロバイダーや利用者も法的に罰せられる可能性がある。
- Q企業はPhaaSによる攻撃からどのように身を守ればいい?
- A
従業員へのセキュリティ教育、メールセキュリティ対策の強化、多要素認証の導入、不審なアクティビティの監視などが重要だ。組織全体でセキュリティ意識を高め、対策を講じることが不可欠。
PhaaSが生まれた歴史や背景
初期のフィッシング詐欺は1990年代にAmericaOnline(AOL)のユーザーを標的としたものが始まりとされる。当時、インターネットはまだ新しい技術であり、ユーザーのセキュリティ意識も低かったため、簡単な手口でも多くの被害者が出た。ハッカーたちは、AOLの従業員を装ってユーザーにメッセージを送り、パスワードなどの個人情報を騙し取っていた。
2000年代に入ると、電子商取引の普及とともに、eBayやPayPalなどのオンライン決済サービスを標的としたフィッシング攻撃が増加した。攻撃者は、これらのサービスの利用者に偽のメールを大量に送信し、偽のログインページに誘導して個人情報を盗んでいた。
2004年頃には、フィッシングは組織化され、専門的な役割分担が進み、犯罪経済の一部として確立された。フィッシングに必要なツールやインフラを開発する者、攻撃を実行する者、盗んだ情報を売買する者など、それぞれの役割を持つ犯罪者が連携して活動するようになった。
PhaaSの概念が登場したのは比較的最近であり、2020年頃にBulletProofLinkのような主要なプロバイダーが確認された。これは、フィッシングがさらに高度化し、サービスとして提供されるようになったことを意味する。
インターネット技術の進歩、特にクラウドコンピューティングや自動化技術の発展が、PhaaSの実現と普及を後押ししたと考えられる。クラウド技術により、攻撃者は安価かつ容易にフィッシングに必要なインフラを構築できるようになった。また、自動化技術により、大規模な攻撃を効率的に実行することが可能になった。
PhaaSのまとめ
- PhaaSは、サイバー犯罪者が技術的な知識がなくても高度なフィッシング詐欺を実行できるサービスであり、近年その利用が拡大している
- PhaaSによるフィッシング攻撃は、個人情報の詐取、金銭的な被害、企業の信用失墜など、深刻な影響をもたらす可能性があるため、警戒が必要である
- 個人と企業は、セキュリティ意識の向上、多要素認証の導入、セキュリティ対策の強化など、多層的な対策を講じることで、PhaaSによる脅威から身を守ることができる

以上、PhaaSについてでした!これで、PhaaSはあなたの知識となりましたか?
被害にあわないように対策しましょう。まだまだ足りないという方は、コメントをぜひください。お待ちしております。
コメント